ENVIRONMENTAL INITIATIVES 環境への取り組み

気候変動への取り組み(TCFD準拠、温室効果ガス(GHG)排出量)

1. 気候変動に対する取り組みの考え方

株式会社ミスミグループ本社(以下、当社)は、2021年9月にTCFD提言への賛同を表明し、同月にTCFD提言への賛同企業により組織される「TCFDコンソーシアム」への参画を表明いたしました。気候変動に対する取り組みとして、影響が大きいメーカー事業を中心に、1.5℃/2℃シナリオ、および4℃シナリオに基づく分析を実施し、各々のシナリオへの移行リスク・物理リスク・機会の特定、事業インパクトの評価を行うなどの戦略構築に着手してきました。

2022年3月17日の当社取締役会で承認された内容をもとに、気候変動のリスクの特定、評価、低減等のリスク管理プロセス確立や、リスクと機会の評価の定量化、進捗評価の仕組み確立に取り組み、経営方針としてTCFD提言に基づく開示を行いました。

今後も、引き続きTCFDの枠組みに沿った気候変動関連の情報開示を充実させるとともに、当社の事業活動を通して地球温暖化防止等の気候変動対策に取り組み、持続可能な社会の発展に貢献してまいります。

TCFD:Task Force on Climate-related Financial Disclosures(気候関連財務情報開示タスクフォース)とはG20の要請を受けた金融安定理事会(FSB) により設立されたタスクフォースで、気候変動がもたらすリスクおよび機会の財務的影響を把握し開示することを目的として、2017年6月に自主的な情報開示のあり方に関する提言を公表しました。
*TCFD 公式サイト: https://www.fsb-tcfd.org/TCFD

2. TCFDフレームワークとの対照表

下表は、推奨開示項目と当社の開示項目の記載内容を対照表の形にしたものとなります。

ガバナンス

3. ガバナンス

当社は、気候変動対応への取り組みについて、取締役会にて定期的に討議を行っています。
2021年10月に委員長を代表取締役会長、副委員長を代表取締役社長とするサステナビリティ委員会を設置しました。委員会は当社におけるサステナビリティの基本方針を策定し、経営計画や経営方針に対する検証と、社会課題に対する取り組みを推進し、取締役会に報告・提言を行います。

ESG経営をグループ全社で横断的に推進するため、サステナビリティ委員会は、取締役会の監督下、サステナビリティ推進担当役員を定め、グループの執行組織である本部・企業体・プラットフォームと連携して、ESGに関する目標設定・進捗状況をモニタリング、評価等を行い、サステナビリティへの取り組みを継続展開します。

全社的推進組織であるサステナビリティプラットフォームは、気候変動問題を含むESG重要課題を明確化、日本の拠点のみならず、中国・アジア・欧州・米州それぞれの担当者と連携し、各地域での個別課題方針を策定、グループ役員会・サステナビリティ委員会へ進捗を報告しています。

今後、サステナビリティ委員会で年に2回以上、気候変動に関するリスクの再評価の討議を行い取締役会へ報告します。

(推進体制図)
サステナビリティ委員会

戦略

4. 本レポート作成のためのアプローチ

当社は、2021年12月に「サステナビリティ基本方針」を取締役会で承認しました。当社事業が顧客・サプライヤーの「あらゆるムダの排除」により、インダストリアル・オートメーション産業の非効率解消に貢献しています。インダストリアル・オートメーション産業は様々な経済活動の自動化・省力化などを実現し、社会の持続的発展に不可欠なものとして寄与しています。当社はそのような中で気候変動対策を社会の持続的発展の為の最重要課題と捉えて、取り組んでまいりました。

2021年9月のTCFD提言に賛同したあとは、外部の専門家と意見交換をしつつ、事業のリスク・機会を特定し、シナリオ分析を行ってきました。事業の視点とIT・生産・物流という事業基盤の視点と双方の実務責任者との議論を重ね原案を作成しました。これを取締役会で報告・討議してまいりました。

4-(1) リスクと機会の特定

分析にあたっては、複数の気候変動に係る科学的シナリオ等から自社事業を取り巻く将来像を想定し、リスクと機会の両面から各シナリオが戦略に与える影響を分析しました。

社会全体が脱炭素に向けて変化を遂げ、温度上昇の抑制に成功する1.5℃/2℃シナリオと経済発展を優先し世界の温度上昇とその影響が悪化し続ける4℃シナリオに分けて検討し自社の活動と関連するバリューチェーン・サプライチェーン全体を対象としました。

事業の種類によって抽出された気候変動対応の上でのリスクを列挙し、特に財務上の影響の大きいもの、一時的な財務インパクトは少ないが長期に継続するものを重要度大として個別対応策の検討をしました。

以下がその概要となります。

4-(2) 移行リスク

当社では、電力消費規制やコスト上昇による売価上昇や運送費のコスト上昇、当社のGHG排出量削減情報開示不足による評判の低下などはリスクが大きいと見込んでいます。

4-(3) 物理リスク

拠点への甚大な被害が想定されるものの、多拠点展開によるリスクヘッジは講じております。一方で、外部調達している商材のサプライヤーの中には想定する被災への対応が未対策なサプライヤーも存在し、被災の影響が残るリスクも存在すると考えています。

4-(4) 機会

顧客の脱炭素化に向けた製品・生産工程変化は当社の将来的な売上拡大の機会につながると考えております。また当社で築き上げたビジネスモデルが、社会の自然災害に対するレジリエンス強化に貢献すると考えています。

5. シナリオ

5-(1) 1.5℃/2℃の世界観

1.5℃/2℃シナリオの分析においては、気温上昇に対する施策として、各国で脱炭素政策が強化され、当社が関わる産業も影響を受けます。
まず、脱炭素化社会で炭素税による負担が高まっていくことが予想されますが、当社の主要商材も一定程度、炭素税賦課の影響はあるものの商材の性格から限定的であると考えています。
一方で、中国などで見られる政府主導の省エネ規制強化については、域内に拠点のある企業に対し、電力供給停止や計画停電などの措置が取られた場合、世界に営業・物流・生産施設を102拠点持つ当社グローバルネットワークにおいても、操業抑制・停止につながる恐れがあります。また、当社の主要市場である自動車業界等における温室効果ガスの排出量の情報開示・削減要請が進んでおり、これらの対応に遅れることによって、顧客の購買要件の未達につながる可能性や、株主などその他のステークホルダーによる信頼や評判を下げるといったリスクも想定されます。その他にも脱炭素化の潮流は、電化製品や軽量製品の需要を高め、当社製品の主原料である素材価格の高騰を進展させることが予想されます。また燃料費の高騰やEVトラック等の導入が、当社の配送料金体系に影響を与える可能性があります。

1.5℃/2℃シナリオでは社会・産業全体が気候変動対策を推進しており、この中で顧客の購買行動も変化していくと考えております。
顧客の労働生産性改革、エネルギー消費削減など、効率化に対するニーズが高まることが予想されます。
ミスミグループのビジネスモデルは顧客の現場での作りすぎ・手待ちのムダを排除することによって、循環型社会への移行加速を促しています。
ミスミグループが確実短納期の強みを活かし、そのビジネスモデルを磨きこんでいくことはインダストリアル・オートメーション産業全体の持続的発展を支えるものとなります。

5-(2) 4℃の世界観

4℃シナリオの分析においては、脱炭素政策が強化されず、平均気温は上昇を続け、自然災害が激甚化し、物理リスクが高まります。
当社は、日本だけでなく、中国・アジア・欧州・米州で事業を展開しており、世界に102拠点のグローバルネットワークを構築しています。これらの拠点が台風・洪水などの自然災害に被災した場合には、操業停止の可能性があり、当社の商品・半製品在庫や機械装置、物流設備などといった資産の毀損も考えられます。当社がこれまで構築してきた「グローバル最適生産」「確実短納期」はこうしたリスクへの対応にもつながります。また顧客や業界から気温上昇対策や災害に強い商品・サービスへの需要が高まると考えています。

「グローバル最適生産」については、生産拠点を世界各地に分散化させており、顧客の注文を受けた時点で、どの拠点で生産するか最適化を図るシステムを構築しているため、災害時の生産体制では強いレジリエンスが備わっております。 「確実短納期」は、注文時の顧客の手間や時間を大幅に削減し、納期遵守にこだわった配送体制を構築しているため、産業全体で災害時の早期復興・復旧に貢献できると考えております。

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6. 事業インパクト評価

それぞれのシナリオが組織の戦略的・財務的ポジションに対して与えうる影響を評価しました。その中で導出したリスク・機会において、財務的影響度が比較的に大きいと予想される事項を分析しています。

7. 対応策の検討

シナリオ分析の結果を踏まえ、気候変動の対応策の方向性を検討しました。その議論の中で、早急に着手が必要かつ可能なものと、段階的に計画を実行していくべきものとに優先度で区分しました。

リスク管理

8. リスク管理のプロセス

リスク優先度は、財務的影響の確率、大きさ、発生時期を考慮の上、判断をしています。自社よりも顧客でのエネルギー使用に伴うCO₂排出量が相対的に多いことに着目し、リスク管理体制を構築していきます。

当社は業務執行を行う本部・企業体・プラットフォームで年に1度リスク評価の洗い出しを行い、重要な案件・管理項目について取締役会にて報告を行っております。気候変動も、優先度の高いリスクの一つと位置づけております。

風水害による被害は発生が予見される地域については施設の強靭化対応と、従業員と施設の安全性を重視した訓練などを行っています。一方で、これまで発生が少なかった地域や予見困難なエリアについては、日常的な監視を重視しつつも被害の最小化と早期の復旧に努めます。

気候変動リスクは、サステナビリティ委員会が目標設定・進捗状況をモニタリング、評価等を行い、統合的に管理しています。必要に応じて、外部専門家の見解を取り入れ、取締役会に報告します。

ミスミグループでは、災害の甚大化による影響に加えて、感染症などのパンデミックも含めて事業継続計画の体制を構築しています。
従来の日本法人に加えて海外現地法人へも災害対策などの文書とプロセスや連絡の体制整備を実施しました。
風水害の激甚化等の物理リスクに対する備えとしてこれらの体制の充実と必要な訓練を行います。

ミスミグループは日本における主要仕入先に対して、当社で作成した「サステナブル調達ガイドライン」を開示し合意を促すとともに、GHG排出量をはじめとする環境活動の取組や管理体制構築状況を確認するアンケートを依頼し、実態調査を行いました。

今後もサプライチェーン全体を視野に入れて、リスク・機会の定量的把握と実質的な対応策の立案・実行を進めてまいります。

指標と目標

9. 指標と目標

当社グループでは事業展開そのものを通して、インダストリアル・オートメーション産業界の資源投入量・消費量を削減する付加価値を顧客に提供します。顧客の業務の「ムダ」を根本的に排除することが、従来の大量生産・大量消費・大量廃棄経済から循環型経済への移行加速に貢献するものと考えます。
また、自社の事業活動を通して地球温暖化防止などの気候変動対策に取り組むとともに、サプライヤーも含めたトータルサプライチェーンにおける環境対策の管理・実行、加えて、商品の品質・安全性も含めた環境経営を推進します。

9-(1) カーボンニュートラル計画、実行施策

当社グループでは、2050年のカーボンゼロを実現するために、2030年度の排出量の目標値を設定しました。当社グループのスコープ1およびスコープ2の排出量を2020年度対比で42%削減します。

ミスミグループGHG排出量推移と削減目標

この目標を達成するために、当社グループでは、これまで進めてきた省エネルギー活動を一層推進します。

生産拠点では、製造工程で生じる不良ロスを削減するために、新たな設備の導入や工程の改良によりエネルギーの無駄を最小化する取り組みを実施してきました。廃棄物の適切な分別を実施、リサイクル率80%以上を維持しておりさらに集荷、製造指示書の電子化とタブレットの導入によるペーパーレス化を推進、環境負荷の低減に努めています。

今後、生産拠点に加え物流拠点や営業拠点においても、順次再生エネルギーへの切り替えなどを推進してまいります。

駿河生産プラットフォームの環境マネジメントKPI はこちら

温室効果ガス(GHG)排出量

ミスミグループ 温室効果ガス(GHG)排出量

GHG排出量の削減目標

当社は、GHG排出量につき以下の削減目標を策定しました。これはSBTi(*1)において1.5℃目標(*2)を達成するために求められる削減率・水準と整合するものです。

【目標】
ミスミグループ全体の事業活動に伴うGHG排出量(スコープ1,2)について、
・2030年度までに2020年度比で42%削減する
・2050年までにカーボンニュートラルとする

  • *1 SBTi(Science Based Targets initiative)とは、2015年にCOP21にて合意されたパリ協定が求める水準と整合したGHGの削減目標を企業が設定することを推進する取り組みである。
  • *2 1.5℃目標とは、パリ協定で掲げられた、世界的な平均気温上昇を産業革命以前と比べて1.5℃に抑制するための目標である。

削減実績

当社は2022年度において、グループ全体のGHG排出量(スコープ1,2)につき2020年度排出量比で70%にあたる49千トン-CO2を削減しました。
具体的な内容は、ベトナムの生産拠点における太陽光発電(オンサイトPPA *1) の導入、国内生産拠点(静岡)における空調関連の省エネ推進、国内生産拠点および本社ビルにおけるCO2フリー電気(*2) の導入、ベトナム、中国、タイ、インドの生産拠点を対象とした再エネ電力証書(I-REC、TIGRなど *3) の購入となります。
また、当社の主要なサプライヤーにGHG排出量の開示を要請し、Scope3カテゴリー1排出量の一次データ化*4に向けた取り組みを継続しています。

*1 オンサイトPPA(Power Purchase Agreement)方式とは、自社所有地内で他社に発電設備を建設・所有・運営・保守してもらい、自社は当該発電設備から生じる電力を購入する契約方式である。
*2 CO₂フリー電気とは、発電時に CO₂を排出しない再生可能エネルギー由来の電気である。
*3 I-REC(International Renewable Energy Certificate)とは、I-REC規格財団(オランダ) が提供するルールとシステムにより認証・ 発行される再生可能エネルギー電力証書である。また、TIGR(Tradable Instrument for Global Renewables)とは、APX社(米国)が提供するルールとシステムにより認証・発行される再生可能エネルギー電力証書である。当社が購入する各国のI-REC、TIGRは各国の市場内で発電された再生可能エネルギー由来の電力に限った証書である。
*4 一次データ化:環境省DBの金額ベース排出原単位などの原単位データベースを用いずに、取引先などから直接入手したデータを用いて排出量算定を行うこと。