対談2019.5.9
【 工学女子meetsロボット開発者 吉藤オリィ氏 】
エンジニアリングで、まだまだ未来は変えられる後編
子どもの頃夢中になったものが、将来きっと武器になる!
—— ではここで、皆さんがエンジニアリングを目指したきっかけについて教えてください。
吉藤:僕はもともと図画工作や折り紙が大好きだったので、母が「この子はものづくりが得意に違いない」と、中学1年の時にロボット大会に出るよう勧められたんです。大会はマイクロマウスのようなものをプログラミングして2回分のタイムを競うのですが、2回ともできたのが僕1人!他の39人が全員失格になるということで叶った、奇跡的な優勝なんです(笑)。翌年は関西大会に出場して準優勝。そこで「ロボットっておもしろいな」と思い始めました。
そして、高校時代で今でも師匠と呼ぶ先生に出会い、ものづくりに没頭しましたね。開発していた車椅子を使ってくれる人の存在が僕の大きなモチベーションで、「使っている人の生活がどう変わるか」が自分にとって興味の正体だったと思います。使った人が今まで“できなかった”ことを“できる”ようになることが喜びでしたね。
中嶋:私はアメリカ留学中、映像編集ソフトを無料で使えるという不純な(笑)動機でFRCに参加したのですが、ロボット制作チームを手伝って、自分も作るうちに面白くなりました。イメージが180度変わりましたね。
立崎:私は幼稚園の頃から、かわいいものよりもネジやナットとかが好きで(笑)、よくホームセンターで父に買ってもらって喜んでいました。初めてロボットを作ったのは小学3年です。
吉藤:何を作ったの?
立崎:模造紙に書いた線からはみ出さないよう走るロボット。小学5年から2年間ロボット教室に通わせてもらって、小学6年で、このフクロウ型ロボットを作ったんです。目にカメラが付いていて顔のある方に向きます。前に進む、頭の上下の角度を変えるという動きをします。この頃は画像認識をやりたくて顔認識の機能もつけたんです。
「OriHimeと少し似ていると思う」とはにかむ立崎さんに、「めっちゃいいね!!」と吉藤さん ※写真右側がOriHime
中嶋:吉藤さんは折り紙が趣味と伺いましたが、私も大好きです!ロボットの開発を進める上で、折り紙が役に立つ場面などはありますか?
吉藤:折り紙のおかげで展開図が得意になったかな。数学では、因数分解は得意ではなかったけれど、立体図の切断面とかは結構すらすら解いてましたよ!空間の把握能力や因果関係とか、限られたリソースをどう活用するかが身に付きました。平面だから何本も足のある昆虫を折るのは一見難しそうだけど、どうすればできるのかを考えるのがパズル的で楽しいですね。
おもむろにコートのポケットから折り紙を取り出して、何かを作り始める吉藤さん
吉藤:折り紙が好きだからCAD(設計ソフト)も好き(笑)。15時間くらい折り続けていたこともあって集中力もついたかな。この集中力はモノづくりの基礎体力になっています。好きなことに集中する経験は、若いうちにやっておくと後で武器になると思いますよ!
会話しながら、みるみるうちに完成した「吉藤ローズ」。小学4年生のときに考案したオリジナルのバラ
身近に困り事がないか探してみよう!
そこに、ものづくりの“意外なタネ”がある
—— これから日本は、超少子高齢化社会がやってきます。そんな未来にエンジニアリングは何ができると思いますか?
吉藤:私が思うのは、人間は”できない事”より、“できてた事ができなくなる”という変化に困るということ。例えば20年前ってグーグルマップはなかったけど、誰も困ってなかった。でも、今、突然グーグルマップがなくなると…?
中嶋:迷子になるのが目に見える(笑)。
吉藤:そう、ないと困るよね。でも、最初からなければ困らないんだよね。残念ながら人間は年をとると衰えによりできないことが増えます。筋肉が弱ったり、障害を負って右腕が動かなくなるかもしれない。これを“できる”に変えられるのがテクノロジーだと私は思っています。機械と人間の融合、著書の「サイボーグ時代」にもそんなことを書きました。
立崎:特に手や足に代わるようなもの。困っている人も多いと思うので、それを補えるロボットがあったらいいなと思います。
吉藤:二人は今、何か困っていることはある?
吉藤さんの問いに「困りごとってあるかな……」と二人
吉藤:これは結構、重要な問いですよ。困りごとの解決から“ものづくり”が始まるから。
例えば、「雨なのに学校に行かなきゃいけない」。些細なようで立派な困りごと。僕は「我慢弱さ」と呼んでいます(笑)。
Suicaもコートの袖に穴を開けて入れておくと、電車乗る時、そのまま通れます。著書に書いた「黒い白衣」が、今日着ているコート。折り紙や傘、資料だって入る内ポケットを作ってあるので、プレゼンしたいなと思ったら、すぐにサッとパンフレットを取り出せます。
中嶋・立崎:おお!すごい!!
吉藤:これはバージョン5.3くらいかな。15着くらいつくってきたから(笑)。そう、パッとプレゼンできるのも大事です。立崎さんは、先程のフクロウ型ロボットの小さいタイプを作って、いつも肩に乗せておいたらいい。「これ動くんですよ!」と目の前で、デモを見せれば有効なプレゼンになります。
立崎:いいですね!面白そう。
「いいものつくったら、必要としている人に届けたい!」
世の中を変えていくためには“発信力”も大事
—— 最後に、みなさんの将来の夢をお聞かせください。
立崎:私は、社会の困り事を解決するロボット開発者になりたいです。
吉藤:立崎さんはもうなっているよ!ロボット開発者の定義はあってないようなもの。お金をもらって開発するのがロボット開発者なら、お小遣い程度もらえばいいだけです。これから何か作るなら、まず誰か困っている人を見つけて一緒にやればいい。1年もあれば、すぐにできますよ。
中嶋:私はまだ将来について絞り切れていなくて、今はバイオメディカルエンジニアも楽しそうだし、教育や心理学にも興味があるし……。今は興味の幅を広げつつ、ある程度の着地点を見つけるのが、直近の目標です。
吉藤:僕も高校時代はずいぶん迷いました。“命をかけてでも、やりたいこと”を既に見つけている海外の高校生と出会って、ずいぶん羨ましく思いました。それで、自分も懸命に考えて考えぬいて、「孤独の解消」というテーマを見つけたんです。迷うのも大事!でも迷っても立ち止まらないこと。
中嶋:FRCのチームメンバーを集めた時、最初は「できるわけない」とくよくよしていたんです。でも、どうにかなりました。その経験から「難しいこともちゃんと取り組めば、どうにかなる」と実感して、くよくよする時間が勿体ないと、私も身に染みて感じました。
—— 吉藤さんの夢はなんですか?
吉藤:「孤独の解消」をテーマに取り組んできて、事例は作れました。寝たきりでも働いて稼ぐ喜びを得られる「分身ロボットカフェ」もそう。でも、「孤独の解消」はまだ広がっていない。生きるのが辛いという人、呼吸器をつける選択をせず亡くなっていく人などたくさん見てきました。できないことの中で「これができた!」を見つけられたら、人は生きようとするものだと思うんです。それを多くの人が発見できるようにするのは、ツールの次にやっていきたいテーマです。
ただ、1人では限界があります。だから、生活に困っている人たちと若いエンジニアを繋いで、「何か作ってみよう」と発展的に考える場づくりを始めています。実は、福祉の現場では個々のさまざまな工夫やアイデアを共有する機会がないんですね。世の中を変えていくのは難しいですが、本当に必要な人に知ってもらう機会を、これから積極的につくっていきたいと思っています。
技術者の中には「プレゼン力なんて…」「いいものつくったら売れるでしょ」という人もいます。でも「いいものつくったら、必要としている人に届けられる」世の中に変えていくためにも、発信力をつけることは必要だと思います。
—— “エンジニアリングでまだまだ未来は変えられる”というテーマで皆さんからお話を伺い、ものづくりの可能性について、多くの気付きやヒントを頂きました。皆さん、本日は長時間ありがとうございました。
分身ロボットカフェで活躍した「OriHime-D」と一緒にパチリ