対談2019.4.26

【 工学女子meetsロボット開発者 吉藤オリィ氏 】
エンジニアリングで、まだまだ未来は変えられる前編

エンジニアリング(工学)の世界で国際的に活躍する、立場も年齢も異なる3人が、“ものづくりの魅力と可能性”をテーマに語ります。

集合写真

左から吉藤オリィさん、中嶋花音さん(高校3年生)、立崎乃衣さん(中学2年生) ※ 学年は取材時

登場するのは、ロボットコミュニケーターの吉藤オリィさん。分身ロボット「OriHime」の開発者です。インターネットを通して遠隔操作ができる「OriHime」は、搭載したカメラ・マイク・スピーカーを使い、まるで「その場にいる」感覚で他者とコミュニケーションが行えます。

これは入院や身体の障害等の事情により移動が困難な人の社会参加を促す、画期的な発明です。

たとえば世界的な社会現象となった「アイス・バケツ・チャレンジ」で知られるALS患者のように、重度肢体不自由患者の人でも、視線入力装置を併用し分身ロボットを操作することで、社会参加が可能になります。

最近では遠隔操作で接客する「分身ロボットカフェ」の実験が行われたり、「OriHime」がモチーフの映画『あまのがわ』も公開され、注目を集めています。

対談相手は、ミスミの支援団体で、9万人超の参加者を誇る国際ロボット競技会「FIRST Robotics Competition」(以下、FRC)に、日本チームとして初めて2018年世界大会に参加しルーキー賞を受賞した上、2019年大会の世界大会出場権も獲得した「SAKURA Tempesta」のメンバー。チーム創設者の中嶋花音さんと、中学生ながら今までに10台のロボットを作ってきた立崎乃衣さん。立崎さんは、小学校6年生のときに作った「フクロウ型ロボット」持参で参加してくれました。

日本では、工学を目指す女性は少ない。10年後、20年後は…?

—— まず今回の対談は「工学女子 meetsロボット開発者」というサブタイトルですが、世間では工学を目指す女性は珍しいですね。

吉藤オリィさん(以下、吉藤 敬称略)僕が学生の頃からそうです。なぜ日本は工学分野に女性が少ないんでしょうね?まだ時代的に、男女の固定観念が残っているように思います。

吉藤さん

高校時代に世界最大の科学技術大会Intel ISEFにて3rd Award受賞するなどの活躍により、吉藤さんは一躍有名に

中嶋花音さん(以下、中嶋 敬称略)実は、FRCの活動の中でもそれについては調べていて、日本は「女性はいずれ家庭に入る」という意識の人がまだ半分以上もいるんです。欧米では理系に興味がある女性は40%、日本はたったの16%。「興味がある」で16%なら、実際に理系に進む女性はもっと少ないと思います。

吉藤:日本は女性のロールモデルが少ないというのもありますよね。象徴的な人物がいれば、親にも解ってもらいやすい。

大切なのは、それが1人の天才ではなくて、周りを率いる人物であること。1匹狼の天才は手が届かない遠くの存在に感じる。年齢が離れすぎず、少し上ぐらいがいい。それなら「すごい!よーし私も」と思うでしょう。

立崎乃衣さん(以下、立崎 敬称略)たしかに身近に感じられます!

吉藤:それに環境も確実に変化しています。インターネット社会と呼ばれるようになって、多様性や許容度はどんどん高まっています。LGBTや障害を持つ人に対してもそうですよね。今の当たり前が10年20年後にはまったく変わるのは間違いないと思います。

—— では10年20年後には、工学女子が珍しい存在ではない可能性もありますね。

吉藤:今の変化のスピードなら十分ありえます。お互い啓蒙しあう中から、かっこいいロールモデルが誕生すると思いますね。たとえば30歳前後の、私や落合陽一君とかが女性だったら、工学を目指す女性はより増えていたかも知れないね。

ロボットが実際の社会で活躍するには、まだ早い?

—— 吉藤さんは、昨年「分身ロボットカフェ」を期間限定で実施されるなど、現在は社会課題に取り組んでおられる印象が強いですね。

吉藤:社会課題だから解決したいという「正義感」というよりは、世の中の未解決である「孤独」という課題を解き明かしたいという「理系のモチベーション」なんです。高校時代に、ひたすらモノづくりを楽しんだことが今、福祉領域という分野で、特技として役立っています。

分身ロボットカフェ

2018年11月に期間限定でオープンした「分身ロボットカフェ」。寝たきりの人でも働ける画期的な試みとして、社会の注目を浴びた

中嶋:「分身ロボットカフェ」で「OriHime」は大勢の方にみてもらえたと思います。でも、ロボットって個人の趣味で使うのは別として、実際の社会では、まだまだ受け入れられる環境が整っていないような気がするのですが、どう思われますか。

吉藤:そうですね、バリアフリーやLGBT の理解が進み受け入れられるようになったのは、しっかりと主張し続けてきたからだと思います。だから、ロボットについてもまずは声を大きくすることが大切です。「こういう夢があって、こういうものを作りたいです」と世の中に表明する。今はクラウドファンディングなども増えていますしね。

中嶋:確かにLGBT については、渋谷で大きなパレードを行っています。不特定多数の人に見てもらう企画ですね。そうした機会が増えるといいなと思います。

吉藤:そう!「分身ロボットカフェ」も同じ考えです。面白いのは“福祉イベント”と打ち出すと福祉分野の人しか集まらないけれど、“新しい発想のカフェ”と言えばロボットに興味のある人や海外からもエンターテインメントの1つとして注目してくれるんだよね。

中嶋さん

「SAKURA Tempesta」創設者の中嶋さんは、“広く伝える”という点にも尽力している

吉藤:僕の命題は「孤独の解消」で、福祉領域という、まだまだアナログの世界で今がんばっています。そうしたアナログの世界は世の中にたくさんあって、そこに僕たちのITやものづくりという特技を持ち込むと、解決できる課題があるんですね。面白くて、すごくやりがいがあります。

ふたりは何か解決したい課題はある?

立崎:解決したい問題は見つかっていないのですが……。以前150センチくらいのペンギン型の給仕ロボットを作ったら「レストランで使えるかも」と言われて、役に立つロボットを作りたいと思うようになりました。それまでは、可愛いだけで満足だったのですが。

立崎さん 給仕ロボット「ペンちゃん」

立崎さんは2年前に給仕ロボット「ペンちゃん」を制作し、レストランで試運転も行った

吉藤:立崎さんのつくったペンギン型ロボット、それを冷蔵庫にしてほしいなぁ。冷蔵庫って動かないから。

中嶋:アイスクリームバーも良いかも!

立崎:それ、面白そう!……実は、吉藤さんにこの機会にぜひお聞きしたいことがあるんです。ペンギン型の給仕ロボットをレストランで試運転させてもらった時に、車輪のところに直径100mmのホイールを使ったら全然段差が登れなかったんです。本当に数ミリの段差に苦労しました。「分身ロボットカフェ」では段差の問題はどう解決しましたか?

吉藤:実はこのケースでは、レストラン側の段差を無くしてしまった(笑)。段差のぼりの問題は研究しがいのあるテーマです。でも非常に難しい。私もさんざん車椅子で人間と同じ速度で階段をどうのぼれるか検討や検証を繰り返しましたが、キャタピラのような無限軌道くらいしか見つかっていないんです。役に立つ回答でなくて申し訳ない。

でも別の視点で考えることも大切です。……そうだね、たとえば人間のほうから給仕ロボットのほうに来てくれるようにするとか。すごい可愛いロボットにして「そこのお兄さん!」て呼びかけるとかね(笑)。ソリューションはいくつもあります。

>>後編に続く
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