

インタビュー
第44回 大会 ミスミ賞
学生チームとして優勝実績をもち、ROBO-ONEにおける“名門”と言える芝浦工業大学SRDCチーム。そんなチームから出場した「旧型」には、チームの危機を乗り越えてきたドラマが詰まっていました。

ミスミ賞の受賞おめでとうございます。今回のROBO-ONEに参加していかがでしたか?
常賀さん:これまでのROBO-ONEに比べると海外の方々が増えていて、より強くなっている印象を受けました。今回は台湾の方が準優勝にまで行っていらっしゃいましたし。
旧型プロバルテモ
(きゅうがたプロバルテモ)
Concept
魂でSRDCチームの歴史を繋いだ機体
Weight
3500g
Height
43cm
Axis
サーボモーター21個
ご自身の成績としてはいかがでしょうか?
常賀さん:想像以上に勝ち上がってしまったな、という感想です。本戦に出ることすらも初めてなのにベスト16に入ることができて、とても嬉しいです。ただ、先輩が過去に製作した部品を使った機体だったので、できれば自分のロボットで結果を残したかったな、とは思っています。
ご自身で製作されなかった理由を伺ってもよろしいですか?
常賀さん:作らなかったというより、作れなかったのです。研究は二足歩行ロボットに関するものなのですが、ROBO-ONEが対象ではなく、さらには卒業研究や就職活動、研究室で出場していた別のロボコンもあり、機体を設計する時間を取れなかったことが理由です。
どうしてもROBO-ONEには出場したかったのですね。
常賀さん:実はこの『旧型プロバルテモ』は、学部3年の後輩が直前まで運用していました。その後輩が自分で設計したロボットでROBO-ONEに出ることになり、機体が空いたのです。私は修士2年なので、今大会がSRDCチーム所属として最後のROBO-ONEになります。芝浦工業大学SRDCチームとしてROBO-ONEに出られる最後の機会だったので、思い出作りも兼ねて、この機体で出ることにしました。
ROBO-ONEの魅力はどんなところにありますか?
常賀さん:ガンダムのようなロボットへの憧れがひとつの理由でありつつ、やはり自分で作ったかっこいい人型ロボットで戦えるのが、ROBO-ONEの魅力だと思います。同時に、今大会では特に海外の方々が、今まで対戦経験のないような独創的な形のロボットを作っていたように、機体を設計する際の選択肢も多く、構造などでオリジナリティを出していけるのがいいですね。
元は先輩の機体ということですが、ご自身が製作で苦労された部分はありますか?
常賀さん:長く使われていた機体で、フレームが歪んでいたり、一部のパーツは破損したりしていたので、その部分の修理・改善をしました。割れていた3Dプリンター製の肩部品は先輩の設計データをもとに新しく作りましたし、破断していた金属部品も新たに切削しました。製作時間が足りず、腰のフレームのように、歪んだままサーボのネジ穴と合っていない場所が残っている部分もあるのですが、ねじを新品で締め直したり、配線を新しくしたりといったメンテナンスは最低限行いました。
モーションなどは新規に作られたのでしょうか?
常賀さん:自分ではいじっていません。機体が手元に来たのが今回のROBO-ONEの前週で、そこから認定大会に出て機体特性を把握したのですが、このときの感触が良かったのです。時間も限られていることですし、自分が下手にいじったら弱くなると思い、そのまま出場しました。



大学入学前は、何かものづくりの活動はされていたのでしょうか?
常賀さん:特に何もやっておらず、たまにプラモデルを作るくらいの素人の状態でした。入学前に見た学祭でSRDCチームを見て、部活で二足歩行ロボットを作っていることは知っていましたが、ROBO-ONEという競技は入部してから知りました。
常賀さんが参加されている「芝浦工業大学SRDC」チームは、何人くらいのメンバーがいらっしゃるのでしょうか?
常賀さん:現在は80名ほどが在籍しています。ロボット競技ごとに班が分かれていて、そのうち35名〜40名ほどが「二足班」として活動しています。
「二足班」の割合がとても大きいのですね!
常賀さん:年によってどの班が多くなるかはまちまちで、人数は流動的なんです。自分の世代では「マイクロマウス班」が一番多くなっていましたね。他の班からも声はかけられたのですが、ガンダムみたいな二足歩行ロボットが作りたかったので、「二足班」に入りました。
入部してすぐ、コロナ禍になってしまったのですよね?
常賀さん:そうですね。対面での活動が制限されていて、1年生の頃はロボットを見たり触ったりすることが一切できない状況でした。2年生から少しずつ制限が緩くなり、ロボットに触ることができるようになって、2年生の秋に参加した第39回ROBO-ONE(リモート大会)がROBO-ONE初参加でした。
工房に行くことができないところからのスタートでしたが、ものづくりの技術はどのように身に着けられたのでしょうか?
常賀さん:コロナ禍で生まれてしまったブランクで、今までのノウハウや技術がロストテクノロジー化してしまうことが大きな課題だというのは、先輩方も含めた部全体で認識していました。CADのようなソフトウェアについてはオンライン上でも伝えることができるのですが、実際に手を動かすハードウェアの加工は、目の前で教えるしかないからです。当時は学校の規則で、まん延防止等重点措置などが出ていると活動できなかったので、それが途切れたタイミングを見計らって集まり、金属加工などを教わりました。加工のノウハウを持っている人が卒業する前に、何としても後輩に教えようという気持ちで今まで培った技術を継承していただけました。
どんな形で教わったのでしょうか?
常賀さん:部内に「切削講習」というカリキュラムがありました。輪郭の加工に始まり、ポケット加工、島だけ残すなど、これをやれば一通りできるよという講習資料を過去の先輩方が用意してくれていたので、それを利用して一気に進むことができました。新入生に一定程度のスキルを教えるためにはテキストがないとうまく教えられないので、元から資料が作られていたのだと思います。


サポートが手厚いからこそSRDCチームは活動が維持できたのですね。
常賀さん:いや、じつは2年ほど前には、二足歩行ロボットの大会に出ているのが自分しかいないという状況になりました。当時自分は学部4年で、このまま自分が卒業すると二足ロボットを運用する人がいなくなって、「二足班」が消失する可能性もありました。
今の人数からすると驚きですね!
常賀さん:何としても出場者を増やそうと、ROBO-ONE Lightの規格に合った機体を大量に製作して、新入生歓迎会で「1人1機体を渡します」と宣伝しました。その結果、17人くらい新入生が集まり、そこから人が増えていったんです。
17機のロボット製作はお1人で行われたのですか?
常賀さん:設計は自分が行いました。金属部品を使うと加工に時間がかかるので、同期の家と自宅にあった3Dプリンターをほぼ24時間稼働させて、17人分の部品と壊れたときの予備を作って組み立てました。人を集めてとにかく大会に出て、最悪、自分が研究や就活でROBO-ONEに出られなくなっても、「二足班」としてROBO-ONEに出続けられるような環境を作ろうと頑張りました。
何がそこまで常賀さんをかき立てたのでしょうか?
常賀さん:やはり自分しかROBO-ONEに出ていなかった状況に危機感を感じたのが大きいです。「二足班」としては機体を製作して大会に出場し、結果を残すことが存在意義だと思いますし、せっかく受け継ぐことができたノウハウや技術が失われてしまうのもいやだったので。SRDCチーム二足班最後の世代と言われるのが先輩に申し訳ないという感情もありました。
コロナ禍で断絶しかけたものを何とか受け継いだわけですからね。
常賀さん:そうですね。ただ軽量なROBO-ONE Lightの機体はそうしてどうにか作ることができたのですが、本大会の規格に合った4kg級ロボットの考え方や運用ノウハウがなくなりかけていました。そこを学ぶ目的もあって、フレームだけになっていた先輩の機体を復活させたのが『旧型プロパルデモ』だったのです。


その後、後進は「旧型」で学んだことを活かしてくれているんですね。
常賀さん:はい。新入生の時に渡したロボットを改良して、今年の3月にあったROBO-ONE Lightでベスト16や32に入った後輩もいます。17台のROBO-ONE Light機を受け取った中には、先日まで『旧型プロパルデモ』を使っていて、今回新しく4kg機を作った後輩もいます。新機体はフレームの剛性もしっかりしていますし、サーボモータの配置は強い機体を参考にしているので、ポテンシャルが非常に高い機体だと思います。今回は準備期間が短すぎたみたいですが、今後に期待しています。
常賀さんの卒業後は、ロボット技術が活きる就職先なのですか?
常賀さん:ロボット系の部門はありますが、自分としては別の部門に希望を出しています。配属はまだ先なので何とも言えませんが。
そうすると、社会人になってからもプライベートなロボット活動は続けられますか?
常賀さん:数年は資金面などの関係でROBO-ONE Lightがメインになると思いますが、ROBO-ONEには関わっていきたいなと思っています。
部品や制作環境が揃っていた学生時代から一気に難しくなりますね。
常賀さん:徐々に自費で制作環境を整えていこうと思っていますが、自宅には現状、3Dプリンターしかありません。社会人になったらmeviyなど外部サービスを利用した金属加工を行えればと思っています。
