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インタビュー

第44回大会 ミスミ賞

Neutrino-Blueニュートリノ ブルー/飛騨神岡高校(ヒダカミロボ部)

  • 田中 万達(たなか かずしげ)さん
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高校生活最後の大会は、3年間を共に過ごしたロボットと

3年生になって、ROBO-ONEと勉強を両立させるために入寮したという田中さん。じつは入学前から飛騨神ロボ部との縁があり、当時の部員たちからも一目置かれていたとのこと。そんな彼が1年生からずっと手塩にかけた『Neutrino-Blue』についてお話を伺いました。

小学校のころからプログラミングに興味津々

ロボットへの興味はいつごろからお持ちだったのでしょうか?

田中さん:小学5年生のときに、飛騨神岡高校(以下略:飛騨神)で開かれていたロボット教室に参加しました。そこで、この高校が二足歩行ロボットを作っていることを知り、その教室をきっかけにしてMicroBitというマイコンボードに夢中になり、「将来は飛騨神でロボットを作ってみたい」と思うようになりました。もともと、ものづくりに興味がなかったわけではありませんが、どちらかといえばガンプラのようなものが好きでした。

ロボット競技へ参加しはじめたのはいつ頃ですか?

田中さん:中学3年生の時に、高山工業高校で開かれたマイコンカーを走らせてゴールを目指す競技に参加しました。結果は振るわなかったのですが、自分で考えた関数をプログラムに組み込んでいたことが評価されて、特別賞をいただくことができました。

Neutrino-Blue

  • Concept

    ヒト型らしい安定したロボット

  • Weight

    3900g

  • Height

    50cm

  • Axis

    サーボモーター23個

プログラミングに興味を持ったきっかけはありますか?

田中さん:飛騨神のロボット教室で、先輩がMicroBitでラジコンカーを作っているのを見て「僕も作ってみたい」と思ったのがきっかけでした。ただ、どう作ればいいのか分からず、マイコンカーを作るために「モータが必要だ」と考えましたが、モータとマイコンを直接つないでしまい、マイコンを壊したこともありました。中学3年生になってから、モータを動かすには、モータドライバという部品が必要だと知り、インターネットで調べてみると、いろいろな制御方法があることがわかり、とても興味がわきました。そこからプログラミングに興味を持つようになりました。

ガンダムのようなロボットは作れそうだと思いましたか?

田中さん:かなり難しそうだと思いました。小学生のころは、アニメを見て、「わー、ガンダムカッコいい!」で済んでいたのですが、今見ていると「どうやって制御しているのか」「なぜこんな動きができるのか」という視点で考えながら見るようになりました。

低重心のライバル機体に勝つために

今回のROBO-ONEは田中さんにとってどんな大会でしたか。

田中さん:初めて認定大会で認定権をいただくことができました。いつもはとても緊張しますが、今回は3年目ということもあって少し余裕をもって対応できたと思います。予選では部長として部員のサポートに徹し、決勝トーナメントでは3位になり、ミスミ賞をはじめ4つの賞をいただけて、とても良い結果になったと思います。

現在ロボ部には何名で活動していますか?

田中さん:部員は6名で、学年は1年生が1名、2年生が4名、3年生が1名です。3年生は僕一人なので今年度は僕が部を盛り上げるよう心がけてきました。機体数は、『Neutrino-Blue』のほかに、先輩から受け継いだロボットが3機あり、昨年制作した新しい機体と合わせて、合計5機のロボットがあります。

人数が少ないとセコンドやサポートが大変ですね。工夫したことはありますか?

田中さん:1日目の予選では、認定権を持っているメンバーは、決勝トーナメントからの出場になるので、認定権をもっている私ともう1名は、予選出場の3機をサポートしました。決勝トーナメントでは、残念ながら予選で落ちてしまったメンバーがサポートに回ってくれました。また、セコンド用のバッグを作って、ドライバーなどの工具だけでなく、バッテリー消火用の缶や革手袋などもまとめ、それだけ持って動けばよいようにしていました。

ROBO-ONEにはいつから出場されていますか?

田中さん:当時は操縦者ではありませんが、高校1年生のときから出場しています。今回受賞した『Neutrino-Blue』は、僕が1年生の時に3年生の先輩と一緒に作った機体で、1年生からの3年間、改良はしていますが、ずっと機体は変えず、一緒に出場しています。

『Neutrino-Blue』は田中さんが3年間ブラッシュアップを続けた機体なのですね。

田中さん:そうですね。最初に機体を製作したときは、腕を前に出せるよう肩にヨー軸*1を入れていましたが、試合中にバランスを崩しやすかったので、昨年から軽量化も兼ねてその軸をなくしました。今年の『Neutrino-Blue』は、低重心の機体に対して“腕の先で掴んで払う”という技を中心にしています。その“払う”攻撃を力強くするために、肘のサーボモータをパワーが強いものに変更しました。

低重心にしている海外勢も多かったですが、その対策ですか?

田中さん:いいえ、もともとは『クロムキッド』というロボットへの対策です。僕が1年生のときに、操縦を担当していた3年生の先輩が『クロムキッド』に負けてしまったり、今年の認定大会でも決勝戦で負けた相手です。最初は『クロムキッド』対策でしたが、似たような構造のほかのロボットにも対応できるよう工夫しました。

事前に低重心の相手を想定していたことが、海外勢にも効果的だったのですね。

田中さん:そうだと思います。今回の目標は、低重心のロボットに対して、人間に近いシルエットの機体で勝つことでした。

アルティメットタイムで使われた、両手を広げて相手に近づく技は迫力がありました。

田中さん:アルティメットタイムはしゃがんだまま歩くことができるので、そのまま近づいて掴み、後ろに投げる“バックドロップ”のような技を考えていました。しかし、この技はあまりうまくいきませんでした。相手の形状によっては、うまく掴めなかったことが多かったです。そこに、しゃがんだままの起き上がる動作を追加したり、前進しながら旋回したりできるように改良を加えました。

練習はロボ部の仲間の機体で試すのでしょうか。

田中さん:できたばかりの技は、最初4kgのペットボトルを相手に練習して、その後は仲間の機体を使って練習します。低重心の機体は全体の幅がとても広いものも多く、練習で相手にしている人型とはシルエットがまったく異なるため、うまく決めることができませんでした。

将来的にはAIを使ったロボットの自律化に挑戦

これまでのロボ部の活動で一番苦しかったこと、楽しかったことは何ですか?

田中さん:苦しかったのはタップ加工ですね。1年生のとき、M2のタップを立てようとして何度も失敗し、7本も折ってしまいました。顧問の中村先生に謝ったところ「次は失敗しないようにね」と優しく慰めていただき、とてもありがたかったです。
楽しかったことは、ロボットを作る際のモーションづくりです。一度ではうまくいかないことが多いですが、諦めずに考えて改善したり、仲間に助けてもらいながら試行錯誤した結果、成功できた時は嬉しかったです。

今回、仲間に相談して解決したのはどんなことでしたか?

田中さん:主に、踏み込んでの攻撃するときの動作についてです。『Neutrino-Blue』が踏み込むときには、腰のヨー軸を回して手を前に出しますが、その際、腰のヨー軸が動くときの勢いで向きがずれて、斜めに飛んでしまうことがありました。また、踏み込んだときの着地に失敗してしまうなど、数多くの問題がありました。踏み込んだ攻撃で勢い余って倒れてしまうことに対して、どうすればいいのか分からなかったので、スロー動画を撮影して仲間と相談しました。その結果、「こうしたほうが良いのではないか」という意見を出し合い、改善策が大会でも役立ちました。

進学されるということですが、大学ではどんなことを学びたいですか?

田中さん:主に制御工学と人工知能を学びたいと思っています。僕が志望している大学は、これまでROBO-ONEには出場したことがないため、大学として初めてのROBO-ONEデビューを目標にしています。ただ、志望している大学は、工学部専用のキャンパスがなく、加工機などの設備が充実していないようなので、主に3Dプリンタで対応できるROBO-ONE Lightから挑戦したいと思っています。大型ロボットに挑戦するのは大学を卒業してからになりそうですが、個人で制作機械をそろえるのは高額なので、meviyのようなサービスを利用することも検討しています。

社会人になってからのイメージもお持ちなのですね。

田中さん:僕は、ロボットの技術者になりたいと考えています。AIを活用して、ロボットの自律化に挑戦したいと思っています。そのため、ROBO-ONE autoへの参加もしていきたいです!

*1 ヨー軸:物体を上下に貫いた軸を中心としてまわる回転軸のこと。文中では、この軸を中心に回転するロボットの関節を指している。