インタビュー
第42回 大会 ミスミ賞
機体の重量制限が最大4kgに拡大され、大型化・ハイパワー化が進むROBO-ONEで、素早い動きを武器としてベスト8まで勝ち上がった『Shibatank Jr.』。物理を学ぶつもりだった柴田さんが全くの初心者からロボットを作り上げた道のりをお伺いしました。
今大会に参加しての感想をお願いします。
柴田さん:やはり、ベスト8で負けたのは悔しいですね。特に負けた相手が、直前にあった地方大会の決勝戦で負けた相手と全く同じでしたから。自分なりに対策をしたつもりはあったんですが、相手の方が上手というところもあり、それをなかなか実践できずに終わってしまいました。
一方でミスミ賞をいただけたことや、認定権*1を持っていない中でも、しっかり予選を突破して決勝に進んだことは嬉しかったです。また、普段練習している環境と大会の環境では足場がかなり違うんですが、その環境の違いに短時間で対応できたのも良かったと思います。
悔しくはあったんですが、何とか持てる力は発揮できた、機体の見せたいところは見せられた大会だったかなと思っています。
Shibatank Jr.
Concept
こだわりのメカで
足の速いロボット
Weight
3160g
Height
50cm
Actuators
サーボモーター25個
ROBO-ONEは久しぶりの有観客開催となりましたが、緊張せずに操縦できましたか?
柴田さん:人前で緊張してしまう節があるんですが、直前の認定大会が観客有りの開催だったので、始まってしまうとあまり気にならなかったです。むしろ始まる前の待ち時間のほうが緊張して、サポートについてきてくれた後輩2人に「しんどい」と弱音をずっと吐いてしまっていました。
ロボット作りを始めるきっかけは何だったんでしょうか?
柴田さん:もともと物理の勉強がしたくて、大学は物理学科に入ったんです。入学してサークルの説明会で今在籍しているサークル(ヒューマノイドプロジェクト)の説明会を見て、実際にロボットを動かしたのがロボット作りを始めたきっかけです。その後の仮入部期間でロボットアームを自分で作り、コードを書いて動かしてみることで、ロボットはとても面白いと実感したんです。その後進路も変え、今は研究室もロボットに関わるところに所属しています。
物理学と比べると、ROBO-ONEは思い通りにいかないことが多くありませんか?
柴田さん:そうですね(笑)。当然のように外乱*2だらけで、実際にロボットを作るうえでもなかなか思うようにいかない部分はあります。でも実際に動かしてみて、なぜこの動きをしなかったんだろう、逆に何でこんなことが起きたんだろうという戦略的な分析力が、外乱によって鍛えられる部分がありますね。
現在は修士2年ということですが、研究は二足歩行ロボットやROBO-ONEに関わるものなのでしょうか?
柴田さん:いや、実は研究は全くROBO-ONEや二足歩行ロボットには関係ないものなんです。もともと二足歩行ロボットをやりたくて今の研究室を志望したんですが、研究室見学で話を聞いたときには「もうここでは二足歩行をやってないよ」と言われまして。今は油圧ショベルを遠隔操縦や自律で動かすためのシステム開発をしています。マニピュレーション*3に関わる部分なので、大きなくくりでは似ているかもしれません。
左から
兵頭 侑樹(ひょうどう ゆうき)さん
柴田 航志(しばた こうし)さん
森田 雅人(もりた まさと)さん
『Shibatank Jr.』は加工やモーション製作をご自身だけでされているそうですね。大学に入る前にものづくりの経験があったんでしょうか?
柴田さん:全く経験がありませんでした。
全くの未経験から1人で作られるのはすごいですね!
柴田さん:これは本当に先輩方に感謝しています。入った当初は本当に右も左も分からなくて。大会前のようなとても忙しい時期でも、先輩方が初歩的なことからいろいろ教えてくださいました。あとは同じ部室の中にNHK学生ロボコンを目標に据えて活動しているサークルがあるんですが、そこにいる回路のスペシャリストに「自分で回路を作るにはどうしたらいいの?」といった話を直接聞けたのは大きかったですね。
他にも、ROBO-ONEなどの競技会でほかの方とお話しする中で参考にさせていただいた技術は、本当に何から言えばいいのかというくらい、たくさんあります。『Shibatank Jr.』はほとんどが強い先人の方々のアイデアをひたすらに模倣した形だと思っていますから。直近で言うと足裏ですね。ROBO-ONE直前の大会で、『ハードラックス』という機体を作られているセキさんにお会いして「今、関東で流行っている足裏はこんな形になっている」みたいな話を聞いてそれをすぐ『Shibatank Jr.』にも反映させました。
柴田さんご自身で製作されたロボットは、『Shibatank Jr.』が初めてですか?
柴田さん:最初はKHR*4です。それは手先を3Dプリンターのパーツで作るぐらいしかしませんでしたが、次に先輩が作っている機体の足の設計を担当させてもらえたので、そこで足を作ったのがちゃんとロボットの部品を作った初めての経験です。その先輩が引退されるタイミングでサーボを譲り受けて、ゼロからロボットを設計した機体を1機目とすると、『Shibatank Jr.』が3機目になると思います。
『Shibatank Jr.』は学部3年の時に組んだ機体をベースにしていて、ROBO-ONEのルールが最大3kgから4kgに変わったり、オフライン大会からオンライン大会に変わって、またオフライン大会に戻ったりといった変化に対応させるためにマイナーチェンジを繰り返して、現在の形になっています。
『Shibatank Jr.』が他のロボットと違う点はどこなんでしょうか?
柴田さん:他の足の速いロボットは、速いと言っても比較的バトルで有利なように設計されているんじゃないかなと思います。サーボモーターもロボット専用をさらに2倍に減速して、ダブルサーボにするような、パワフルなつくりですね。『Shibatank Jr.』はラジコン用のサーボを使って、かつ減速比も足の角度に応じて変わるようにして、重量も足を速くするためにわざと軽く作っているところが違うと思います。
本当は3kg以下の状態から重量は増やしたくなかったのですが、現状の競技規則を読むとリーチを伸ばすために3kgを少し超える必要があったんです。ギリギリ3kgを超える、本当は3.001kgとかにできると美しいんじゃないかと思って改造していました。いろいろやった最後の過程でサーボモーターを追加するという方法をとったのが仇になって、無駄に重量を150gくらい盛ってしまいましたね。
やはりスピードがポイントなんですね。
柴田さん:せっかくロボットなので、人間にはできないような動きをしたいなと思って作っていましたから。
ロボット製作を始めて良かったと感じることがあれば教えてください。
柴田さん:クサい言い方になるかもしれませんが、サークルで先輩、後輩、同期に出会えたことですね。知識の方向性が尖っている、考え方が面白い人たちが多いんです。喋っているだけでも勉強になることもあれば、はたで聞いているとラジオを聞いているみたいで楽しい。そんな面白い人たちと出会えたのは良かったと思います。
ただ、ずっと部室にいると、本当に部員としか喋らなくなってしまうので、人間関係の広がりという点では良し悪しかもしれません(笑)。コロナ禍の影響もあってサークルには学部3年生が1人もいないんですが、今回のROBO-ONEには4kg級の機体を作って参加している2年生がいたりしますから、サークルの未来は明るい、と安心しています。
これから先、『Shibatank Jr.』を改良してこんなロボットにしたいというようなビジョンはありますか?
柴田さん:実は、いったん今回作った機体は一区切りつけて、次はまたゼロから新しいものを作りたいなという気持ちでいるんです。でも、次にどういった機体を作りたいのかはっきりと決まっていないんですよね。今までは「勝つこと」を目標にしていて、次にどういう勝ち方をするのかを考えた結果、足の速い機体を作るという方向で『Shibatank Jr.』になったんです。次は使ってみたい技術を先に決めてしまって、それをベースに作っていこうかなと考えています。
どんな技術を入れるかは決まっていますか?
柴田さん:自分の研究で「ROS2」と呼ばれるオープンソースのミドルウェアを触っていて、せっかくならそれをロボットの方に落とし込むのはどうかなと思っています。今まではどうしても実環境でロボットを動かすまでモーションが使えるかどうかが判断できなかったんですが、ROSに組み込まれているシミュレーション技術を活かして、シミュレーション環境と実機環境で並行して開発が進められるようにできたらな、という希望が漠然としてあります。また、自分でも矛盾しているとは思うんですが、ゆくゆくは自律をやりたいという気持ちがある一方で、やっぱり自分で操縦したいという気持ちもまだありますね。
柴田さん自身にとっての、ものづくりの未来像はありますか?
柴田さん:何らかの形でロボットを作りながら過ごしたいです。ROBO-ONEにはこれからも出場していきたいですね。『Shibatank Jr.』は、実績のある形や技術を自分なりにいいとこどりをして作ったものなので、自分も何らかの形で後輩たちに、これはいい、と思ってもらえるような技術を見せていけたらと考えています。