大会2025.08.05

【京都芸術大学 O LamLam氏】
アート領域へ支援 京都芸術大学卒業展で現地インタビュー

これまでミスミでは “工学系ものづくり”に挑戦する学生へ部品提供などを通じて支援し、次世代ものづくり人材の育成に取り組んできました。今回はアート領域への支援として、京都芸術大学美術工芸学科研究室 O LamLamさんの卒業展示作品にアルミフレームをはじめとした部品提供を行いました。

O LamLamさんは、香港出身で、高校では日本画・水墨画を学び、大学入学後は制作だけでなくパフォーマンスなど表現活動の幅を大きく広げています。
今回、「2024年度 京都芸術大学卒業展 大学院修了展」が開催されている京都芸術大学 京都・瓜生山キャンパスへ訪問し、作品の制作意図や創作活動への思い、アート作品の中でミスミの機械部品がどのような役割を担っているのか、制作の裏側を伺いました。

インタビューに応じていただいたO LamLamさんと卒業展示作品「SOUL SOUP」

インタビューに応じていただいたO LamLamさんと卒業展示作品「SOUL SOUP」

“ふるさとの味”を再現するスープの自動販売機「SOUL SOUP」

作品のポイントと制作背景について教えてください。

「SOUL SOUP」はふるさとの味を再現するスープの自動販売機です。観客が味に関するアンケート用紙とお代を自動販売機に入れると、回答にもとづいて調理されたスープが提供されます。実際には作品の中に入った私が投函されたアンケートの回答を見て、個人を理解し解釈して、スープとしてアウトプットしている形です。アートのジャンルとしては参加型の作品、リレーショナルアートとなります。

“おふくろの味”、“故郷の味”を謳う料理や食べ物はたくさんありますが、原材料自体はそもそも違う国から輸入されており、作り手や工場のラインで多くの人の手を通じて作られているものがほとんどだと思います。そのことを批判するわけではないのですが、改めて考えてみたいというコンセプトで制作しました。

自動販売機をイメージした作品でアンケート用紙とお代を投入すると、アンケートにもとづいた“思い出の味のスープ”が提供される

自動販売機をイメージした作品でアンケート用紙とお代を投入すると、アンケートにもとづいた“思い出の味のスープ”が提供される

制作にあたり、大切にしていることは何ですか?

コンセプトは毎回違うのですが、ひとつの軸として”アイデンティティ”や”人類学”にフォーカスする作品を制作しています。私のアイデンティティは香港人としてだけでなく、イギリスカルチャーの影響もありますし、今は来日外国人という立場でもあります。言葉にするのは難しいのですが、自分が感じていることを伝え、存在を示すために作品を通じて表現しようとしています。

自動販売機の側面には様々な言語のメッセージが並ぶ

自動販売機の側面には様々な言語のメッセージが並ぶ

観客へのスープを調理するO LamLamさん

観客へのスープを調理するO LamLamさん

制作のプロセスで苦労する場面はありますか?

私は考えすぎる性格で、構造を検討する際も素材の比較や図面などで悩んでしまいます。言葉で考えを整理するのが苦手なため、制作が進むにつれて自分の意図が分からなくなり、うまく伝えられず迷ってしまうこともあります。このように、制作中には必ず精神的に追い詰められる時期があるのですが、その過程で不要な要素を削ぎ落とし、本当にフォーカスすべきものが見えてきます。今回は食べ物の提供方法や観客を作品にどう導くかという点を模索しました。自動販売機はもともと一般的なサイズと同じにするつもりだったのですが、インパクトや運営面での周囲の意見を受け入れ、調整しました。

アルミフレームの組み立て作業に取り組む様子

アルミフレームの組み立て作業に取り組む様子

50年、100年後も作品を残したい
アート作品におけるアルミフレームの価値

O LamLamさん写真1

今回、アルミフレームを自動販売機の構造として使用いただきましたが、なぜ使おうと思ったのですか?

保存期間も作品の価値に関わるため、制作するからには50年、100年と残るものを創りたいと思った事が最初のきっかけとなりました。絵画などには長く残る作品は多いのですが、私たちが制作しているような空間全体を作品として捉える”インスタレーション”というアートのジャンルにおいては作品の耐久期間が特に短く、展示期間すら耐えられない素材で制作している場合も多いことに問題意識がありました。外部環境により変化しにくく、強度も高いものを探していました。

素材の見直しから検討されていたのですね。どのようにミスミにたどり着いたのでしょうか?

アート関係のインストール(※展示の搬入や内装を意味する)の仕事をしている知人がアルミフレームを使っていたので、その方々のクチコミもあり、ミスミのアルミフレームにたどり着きました。
ミスミのWebサイトを見ると、美大生の間でも著名な現代アートコレクション「タグチアートコレクション」がミスミの創業者の方によって収集されたものだと知り、アートとの繋がりも感じました。

アルミフレームを使ってみて、いかがでしたか?

まず、とても構造がしっかりしていて安心感があります。木材と比べ、天候や温度、湿度による影響が少ないのは非常に助かります。また、木材だと穴をあけてビスで固定した後に微妙な手直しが出たときに厳しい場合もありますが、アルミフレームは調整しながら組み立てられるのも助かりました。

アルミフレームを中心としたミスミ商品が作品全体を支えている

アルミフレームを中心としたミスミ商品が作品全体を支えている

今後も使う機会はありそうですか?

今回のように構造として使う以外でも、展示台としても活用できると思いました。アルミフレームはノイズが少なく、性格が見えません。例えば、彫刻作品を作ったときに、木材を塗装した展示台だと、塗装ムラなど、制作者の性格が出て作品を阻害してしまいます。その点、アルミフレームは個性が少ない分、作品に影響がないので、展示台として適していると思います。

ミスミの“学生ものづくり支援”が熱い
工学系ものづくりとアートの制作プロセスは似ているのでは

将来的にどんなアーティストを目指していますか?

遠い未来のことはあまり考えていません。同年代のアーティストと話していると、私もこの美術館で発表したいと思うことはありますが、絶対的な目標ではありません。10年後、20年後には自分も変わり、考えも変わるかもしれません。アーティストとしてお金を稼ぐことは考えず、アートに関わる仕事をしながら、自分のペースで作品を作りたいと思っています。

創作活動やアートの活動において、ミスミに期待することはありますか?

作品作りを支援してくれるアドバイザーや参考になるコンテンツがあると助かります。
あと、ミスミの“学生ものづくり支援”は素晴らしいことだと思っています。掲載されている学生の作品とはジャンルが異なりますが、工学系ものづくりとアートで制作プロセスは似ているのではないかと勝手に思っていて、とても熱いものを感じました。

最後になりますが、ミスミはサービスを通じお客様の非効率を削減し時間価値を提供しています。創出された時間を何に充てたいですか?

常に作品やインプットのことを考え、一人で工場を回しているような感覚なので、少し休憩したいです(笑)。

O LamLamさん写真2