支援団体インタビュー

2020年度

早稲田大学ボランティアプロジェクト

狩り部

インタビューイメージ

【活動内容】

「鳥獣被害」という農家で深刻な問題に取り組むボランティアサークル。現地へ赴き、農家や猟師の方々のお⼿伝いや獣害対策を行っています。2020年から「獣害対策ロボット」を⾃分たちで作るプロジェクトを開始。農家への提供を目指して活動中です。

■早稲田大学 狩り部HP https://www.waseda.jp/inst/wavoc/news/2017/03/27/2548/

【インタビューに答えてくれた方】(2021年9月現在)

茂木 光さん(WAVIS開発リーダー/早稲田大学文学部心理コース3年)
塚田 唯香さん(WAVIS機械設計/早稲田大学創造理工学部総合機械工学科2年)

『ミスミ学生ものづくり支援』を
利用して

狩り部は、獣害問題の対策として、狩猟のお手伝いや電気柵の設置といった活動を行っています。その活動の一環として、害獣を追い払うことを目的とする「獣害対策ロボット『WAVIS』」(かかしロボット)の開発にも取り組んでいます。狩り部の中で有志3名が中心になり、2020年6月に開発がスタートしました。
『ミスミ学生ものづくり支援』の利用は「狩り部」としては初めてとのことですが、支援内容についてお聞きました。
「例えば、ロボットの首を上下左右に可動させるギヤードモーターのほか、ロボットを自立させるアルミフレームとアルミパイプを購入して三脚を製作しています。ロボットの部品の大半はミスミさんからご支援いただいています」(開発リーダーの茂木さん)。

インタビューイメージ ミスミ製品を組み合わせて製作した首機構

WAVISは、まず赤外線センサーで接近する野生動物を検知し、ターゲットの方向に、動物の嫌がる超音波を出したり、機体最上部に取り付けたエアガンで実弾を発射して威嚇し、野生動物を遠ざけます。
機構部を載せる三脚の開発を担当したのが塚田さんです。
「メンバー各自、自分の担当するパーツを自室で製作してから大学に持ち寄って組立て、分解してまた製作を続けることを繰り返しているのですが、ミスミさんのアルミフレームは組立と分解がとてもラクで助かりました」(塚田さん)。

インタビューイメージコロナ禍でのオンライン取材
※上段左から塚田さん、茂木さん

それぞれの得意分野を活かした
ロボット開発

WAVISの開発の経緯について、茂木さんはこう話します。
「ワナを仕掛けて害獣を捕獲するのも限界があり、お世話になっている農家さんも被害が止まらなかったので、かかしロボットを作って現場に置けば被害が減るのではないかと思いました」(茂木さん)。
茂木さんは、ミスミが協賛する『ROBO-ONE』大会に出場するほどのロボット好き。塚田さんも、狩り部の他にロボコンサークルにも所属する理系学生。さらに、アンプづくりを趣味とする理系の孝橋さんも加わりました。自分たちの手でロボットを開発してみたいという興味が、このメンバーならできると確信に変わり、開発が始まりました。
開発にあたって課題はいくつもありました。まず、エアガンの制御。
「エアガンを上下左右に動かすのに苦労しました。角度制御には、通常サーボモーターを使うものですが高価です。そこで、ギヤードモーターとポテンションメーターを組み合わせて回転角度を読み取り、スムーズに動かせるようPID制御※をすることで擬似的にサーボモーターを再現しました。このシステムを2台搭載し、上下と左右の動きを出しています。」(茂木さん)。
※比例制御、積分制御、微分制御の三種の制御を組み合わせ、現在値と目標値から、目標値へ到達するための出力値を計算する制御のこと

インタビューイメージ動作確認の様子

エアガンを水平に撃つと人に当たる可能性があるため、なるべく角度を出す必要があり、高さを出せる三脚の台座が採用されました。ミスミ製のアルミフレームは、3つの脚のほか、その中心を通る柱と合わせて計4本使用されています。
「パイプ断面が正方形なため、組み合わせの構造が複雑になって設計は難しかったですね。重量を軽く抑えるのに苦労しました」(塚田さん)。
現在の最大の課題は、画像認識技術。
「4つの赤外線センサーを付けて、全方面から動物の接近を検知できるようになりましたが、検知したものを人間か、動物か、判別する画像認識がまだ実装できていません」(茂木さん)。
画像認識系のプログラムを開発できる人材がメンバーにいないために開発は止まっているとのこと。今後、ロボコンの開発に携わっている学生の協力をいただきながら開発を進める予定です。

インタビューイメージ追い払い用のエアガン

ロボット技術を
身近な社会課題解決に活かす

今回のロボットづくりを通して学んだことをお二人にお聞きしました。
「WAVISを開発する前は、既存のかかしロボットを超えてやろうと意気込んでいましたが、実用に耐えるロボット製作の難しさを実感しています。メーカーがつくるロボットは、当然ながらきちんと設計されていて、どんな状況でも現場で役割を果たしている。本当に凄いなと思います」(茂木さん)。
「私は、ロボコンサークルよりも狩り部のほうに早く入ったぐらい、実は狩猟や野生動物にも興味がありまして、例えば、スーパーで売られている切り身のお肉を食べるだけでいいのか、福島で獣害問題が起こっていて大変そうだとか、そういう問題意識をずっともっていました。茂木さんからロボットをつくりたいと言われたときに、私の中で2つの異なる分野が結びつきました。こんな楽しいことはないと思いながら続けています」(塚田さん)

インタビューイメージ常に問題意識を持って取り組む

自作したモータードライバー
自作したモータードライバー

赤外線センサーで全方位の動物の動きを感知
赤外線センサーで全方位の動物の動きを感知

ミスミのアルミフレームを使用した三脚
ミスミのアルミフレームを使用した三脚

最後にロボット開発を行う学生さんに対するメッセージを茂木さんにお聞きしました。
「理系でロボコンをやっている人は非常に高い技術を持っています。そんな人が獣害対策なり、身近な社会問題に興味を持って取り組んだら、もの凄くクオリティの高いロボットができる。ぜひ、社会課題解決のために技術力を発揮してもらえたらと思います。
この先WAVISが完成し、新型コロナが落ち着いたら実際に農家さんに持ち込み、現場で役立つことを実証してみたいと話す茂木さん。「人に役立つロボット開発」の考えに、ブレはないようです。

インタビューイメージ