支援団体インタビュー
2019年度
大阪府立大学 小型宇宙機システム研究センター
SSSRC HIROGARI Project
【活動内容】
大阪府立大学 小型宇宙機システム研究センター(SSSRC)は、学生が中心となって超小型人工衛星や空き缶サイズの模擬衛星、超小型ロケットなどの宇宙機を開発しています。学生は、それぞれの興味に合わせてプロジェクトに参加しています。
【インタビューに答えてくれた方】(2020年11月現在)
青島 猛弘さん(大阪府立大学 機械工学分野機械力学研究グループ 修士 2年)
横田 航一さん(大阪府立大学 工学域 機械系学類 航空宇宙工学課程 4年)
藤田 祐亮さん(大阪府立大学 大学院 工学研究科 電子数物系専攻 電子物理工学分野ナノデバイス研究グループ 修士 2年)
『ミスミ学生ものづくり支援』を
利用して
SSSRCは、学生が自ら超小型の衛星を開発し、それをJAXA(宇宙航空研究開発機構)が打ち上げる予定のロケットに搭載して宇宙空間に放出するプロジェクトを進めています。普段からミスミを利用しているメンバーたちは、今回『ミスミ学生ものづくり支援』にご応募いただき、当社の商品をご利用いただきました。
「主に、実機の衛星に使うネジ部品やドライバーなどの工具類を購入しました。また、試作機の筐体のアルミ材料はすべてミスミ製品です」(青島さん)。
ロケットに搭載される機材には、厳しい宇宙環境に耐えられるよう高い品質が求められます。
「規模の小さな衛星とはいえ、通常の衛星と同じように厳格な試験や審査の手順を踏まなくてはロケットに搭載されません。これまで、機体は何度もバラして組立て直しをしたのですが、ボルトやネジは使い捨てとし、そのたびに新しい部品を発注しました。ミスミ製品は、品質の素性がわかっているので安心して発注しました」(藤田さん)。
「人工衛星の特殊な設計が求められる材料も調達できたのはありがたかったですね。『MISUMI ECサイト』は絞り込みの精度が高く、いつもドンピシャの製品が簡単に検索できて便利です」(横田さん)。
ゴム手袋、ピンセット、ハンダコテ先などミスミ製品を使用
超小型衛星『ひろがり』が実現する
2つのミッション
SSSRCが開発した『ひろがり』は、SSSRCとしては2機目の超小型衛星で室蘭工業大学航空宇宙機システム研究センターと共同で開発されました。10×10×20cmサイズのCubeSatで、アマチュア無線機を搭載しています。
「『ひろがり』には2つの大きなミッションがあります。ひとつはアマチュア無線機で、より高速で高効率の通信を可能にするため、いままで大学では使用されていない規格を用いて開発しました。もうひとつは展開構造です。今回『ミウラ折り』という折り紙工学を利用したパネル技術の検証を行います。この技術は、太陽電池パネルやパラボラアンテナなどの面積の大きな構造物をロケットにコンパクトに収納し、宇宙空間で大きく広げられるものです。『ひろがり』ではパネルが開く様子を2台のカメラで観察する予定です」(青島さん)
『ひろがり』を搭載するロケットの打ち上げは2021年上期でまだ明確ではありませんが、打ち上げられれば、搭載したアマチュア無線機と地球局システムがつながり、世界のアマチュア無線家が利用できるようになります。
試験中の『ひろがり』
そんな超小型人工衛星『ひろがり』の開発ですが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で計画がストップしてしまいました。ロケットへの搭載期限が迫ります。
「大学が再開しても人数制限しながら作業するなどの制約が続きました。焦り始めた時は、“まだあわてるような時間じゃない”なんて有名漫画のセリフを言って励まし合いました。
特に、衛星上部に取り付ける『ミウラ折り展開物』については、ノウハウを持っている室蘭工業大学に作製をお願いしていたのですが、コロナ禍で大阪に来られなくなり、私たちだけで組み立てや試験をやることになりました。作業手順をマニュアル化して室蘭工業大学と頻繁にオンライン会議を行い、お互いのシステムのバランスのとり方や妥協点を探すなど話合いを重ねながら、なんとか試験をやり終えました。大きな困難を乗り越えたことで、今後、打ち上げを迎えるときは、大きな達成感が得られるのではないかと思っています」(青島さん)。
コロナ禍でのオンライン取材
※下段左から青島さん、藤田さん、横田さん
宇宙を舞台に、夢を形にする
若い技術者が増えていく
人工衛星の開発から各種試験、ロケット打ち上げまで、人件費を除いても約1,500万円の費用がかかるそうです。
「当プロジェクトは、寄付や支援で成り立っていて、大阪府立大学の『つばさ基金』という寄付金を利用させていただいています。『ミスミ学生ものづくり支援』も採用が決まって材料コストを抑えられましたし、耐久性を確認する振動試験では、ある企業の設備を無償で利用させていただきました。多くの方に活動を応援してもらっています」(藤田さん)。
支援を受ける一方、地元の高校に宇宙機開発の魅力を広める活動も展開。SSSRCのメンバーが模擬衛星のCanSat開発をサポートしたり、小型のロケットを打ち上げるなど、実践的な教育にも携わっています。
「高校生の彼らも、私たちも宇宙を目指したい気持ちは同じ。やっていて楽しくないと続きません。人工衛星やロケット開発を通じて、もっと高校や他大学とネットワークを広げていきたいですし、夢と情熱を持っている人とつながっていけたらと思っています」(青島さん)。
JAXAへ『ひろがり』を納品
試験中の『ひろがり』
試験中の『ひろがり』
宇宙で活動する『ひろがり』のイメージCG
人との関わりを大切にしているSSSRCのメンバーたち。どんな想いでプロジェクトを前に進めていくのでしょうか。
「宇宙空間は独特で、地球上では再現できないような不思議な現象がたくさんあります。機体の開発は難しく、一般的な機械の製造では見られないような変わった要求や設計も求められます。こうした課題に知恵を出して解決したり、技術をつくりあげるのが面白いです。これからも続けていきます」(横田さん)。
「私はものを作るのが好きで、自分が作ったものがねらいどおりに動いてくれると、それだけでも楽しい。その目的が人工衛星であること自体が刺激的です。目的を実現でき、多くの人に役立てばそれは素晴らしいことだと思います」(藤田さん)。
夢がある人、それを応援したい人。“成し遂げたい気持ち”を中心に、人の輪が広がっていきます。