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大会レポート

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第44回 ROBO-ONEロボワン

2025年9月20日から21日にかけて、二足歩行ロボット格闘競技大会・第44回「ROBO-ONE」が神奈川県立青少年センター・大ホールにおいて開催されました。

エントリーしたロボットは109機。4kgクラスの二足歩行ロボットが100機以上も集まる大会規模は、世界的にも他に類を見ません。前大会に引き続き、台湾・香港から多数のチームが参加。控室や練習リングで言語の壁を乗り越えながら情報交換や練習試合を行う姿もたびたび見られました。まさに二足歩行ロボット格闘競技の“世界チャンピオン”を決めるにふさわしい舞台が、そこに生まれていました。

まず20日に行われたのは、予選トーナメント。2分間・3ノックダウン制で、32機の決勝出場枠を争いました。

予選トーナメントでのトピックスは、インパクトのある“低重心”ロボットが存在感を増したことでしょう。格闘競技において重心が低いことは有利に働きますが、ROBO-ONEでは立った姿勢を基準として腰より上に重心があるように規定されているうえ、ヒザを90°以上深く曲げてしゃがみ続けることも許されていません。それらの基準をクリアしつつ、重心を下げる工夫を盛り込んだロボットはこれまでにもたびたび出場していました。とくに今大会は前大会から大きなルール変更が行われなかったこともあり、よりアイデアを熟成させる時間をとることができたのでしょう。これまで以上に思い切った“低重心”スタイルの機体が多数登場しました。

その筆頭は、黒をベースに黄色を取り込んだカラーリングでデザイン賞を受賞した『Miracle』(WETD)です。立った姿勢では43cmの身長を持つロボットですが、試合に臨む際には半分ほどまで低くなります。にもかかわらず、ルール上は「しゃがんでいない」状態として扱われる構造になっており、その考え抜かれたアイデアと特徴的な動きに、会場からはどよめきが起きていました。

完全な自律動作で予選に臨んだ『黒狐』(加速研究会)は、ダウンこそ奪えなかったものの相手を見つけてリング上を安定して動き回る動作を見せ、自律ロボット賞と人工知能ロボット賞をダブル受賞。現在は操縦型のロボットが主流となっているROBO-ONEですが、新たな世界が広がる可能性を見せてくれていました。

21日は決勝トーナメント。前日の予選を勝ち抜いたロボットに加えてこの日から参戦したのは、全国各地で行われたROBO-ONE認定競技会で優秀な成績を収め、ROBO-ONEの決勝トーナメント出場権を得ていた14機のロボットたち。合計46機がチャンピオンを目指してリングに上がり、3分間・3ノックダウン制の戦いに臨みました。

予選で旋風を巻き起こした“低重心”ロボットでしたが、一夜明けた決勝トーナメントでは、一転、苦戦を強いられました。それは、予選の戦いを見ていたロボットビルダーたちが、自分たちの機体に一夜で対策技を組み込んで臨んだためでしょう。予選では相手のパンチが空振りになることも多くありましたが、決勝トーナメントではパンチの軌道が修正されて的確にヒットする場面も増えていました。

“低重心”スタイルを採ったロボットの中でも独自の構造と技を持ち、上位に進出したのは『HurtMaker』(HurtMaker)。低い姿勢から相手の上半身に向けて打ち上げるパンチや、見た目のサイズからは見抜きにくい長い足を利用する“大技”などを効果的に使い『Typerion』(ニジガクロボ部 ミナカワ)、『<』(ニジガクロボ部 ぷくたい)などの有力ロボットを降して勝ち上がりました。準決勝では前回チャンピオンの『コビス』(ビスコ)と好勝負を演じましたが、延長戦に入って喫した1ダウンで惜しくも敗退となりました。

決勝戦の顔合わせは、連覇をかけた『コビス』と、台湾からの出場チームとして初の決勝進出を果たした『JokeMaker』(JRH ROBOTICS)。どちらもロボットとしての性能が高いことはもちろん、その操縦技術で会場を沸かせる熱い戦いを見せて勝ち上がってきた機体です。試合は1分過ぎに『コビス』が奪ったダウンで『JokeMaker』が通信トラブルを起こしてしまい、起き上がりの操作ができないままKO負けとなってしまう、不運な幕切れとなりました。連覇となりましたが、ビスコさんの優勝コメントは「私は多くの負けを経験して、何が足りなかったのか、どうすれば良かったのかを考える機会がありました。今回の優勝はそこでたくさん考えることができたからだと思っています」という謙虚なもの。すでに気持ちは次のROBO-ONEに向かっているようでした。

今大会でミスミ賞を受賞したのは、こだわりの“頭”を持つスタイリッシュな『旧型プロバルテモ』(芝浦工業大学SRDC)、徹底的な低重心構造で強烈なインパクトを残した『HurtMaker』、機体設計もさることながら、相手に応じて戦い方とそれに合わせた動きをプログラミングした『Neutrino-Blue』(飛騨神岡高校/ヒダカミロボ部)の3機。特に『Neutrino-Blue』は、予選に出場していなかった初日に参加ロボットの動きを観察し、“低重心”ロボットへの対策プログラムなどを一晩で構築。惜しくも準決勝で敗れたものの3位を獲得し、その対応力が審査員や協賛企業からも高い評価を得ていました。

ROBO-ONEは操縦の上手さで勝つことはもちろんですが、いままでにない構造やそれを活かした動きで、どうやって相手より優位に立つか知恵を絞り、磨き上げることで勝利に近づくことができる競技会です。自分の設計を信じて、ものづくりへの情熱を注ぎ込んだロボット同士が全力でぶつかったとき、観客を魅了する試合が生まれるはずです。その意味で、今大会は独自の構造を持つロボットたちが躍進し、オーソドックスな二足歩行ロボットたちもそれに負けじと対抗する、刺激的な大会になったと言えるでしょう。

全試合終了後に行われた、3か国対抗のエキシビション・ランブル交流戦では、日本語で説明されたルールをヒダカミロボ部のメンバーが英語でアナウンスする場面もあり、若い世代からの国際化も感じられました。

また、大会会場のロビーでは、協賛企業によるロボット技術の紹介のほか、2025年にスタートしたばかりの「ROBO-ONE Beginners」が第2回、第3回大会を併催していました。タイヤで動く台車に相手を打つ“剣”を付けたロボットが使用され、主な年齢層は小学生。高学年になれば自律ロボットで挑戦することもできる、未来のロボットビルダーのための競技です。

国際化や未来のものづくりへの光がそこかしこに見えた第44回ROBO-ONEは、将来「あの大会から新しい流れが始まったのかも」と振り返られる大会となったのではないでしょうか。

ミスミはこれからも、「ROBO-ONE」を通じてものづくりの熱い想いを応援します。

Miracle(WETD)

試合前の最終調整

左:HurtMaker(HurtMaker)
右:<(ニジガクロボ部 ぷくたい)

旧型プロバルテモ(芝浦工業大学SRDC)

健闘を称え合う選手たち

手前:クロムキッド(Kupakuma)
奥:Neutrino-Blue(飛騨神岡高校/ヒダカミロボ部)

左:コビス(ビスコ)
右:JokeMaker(JRH ROBOTICS)

今大会の受賞者一同

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