支援団体インタビュー

2020年度

九州工業大学 社会ロボット具現化センター

Hibikino-Toms

インタビューイメージ

【活動内容】

「Hibikino-Toms」は、農業人口の減少という社会課題に対応する「トマト収穫ロボット」を開発。ロボットの性能を競う「トマトロボット競技会」(毎年12月開催)に参加するなど、トマト菜園での実用化を目標に活動を続けています。

■トマトロボット競技会HP https://www.lsse.kyutech.ac.jp/~sociorobo/

【インタビューに答えてくれた方】(2021年9月現在)

塩路 甲斐さん(開発リーダー)/張 天祝さん(機械設計)
(九州工業大学大学院生命体工学研究科人間知能システム工学専攻博士前期課程2年)

『ミスミ学生ものづくり支援』を
利用して

「プロジェクトの目的はあくまでも農業用ロボットとして実用化すること。その性能評価のために競技会に出場しています。」と語るのは、九州工業大学『Hibikino-Toms』のリーダーの塩路さんです。
2020年12月に実施された『第7回トマトロボット競技会』出場にあたり、『学生ものづくり支援』に応募いただきました。無償提供品は、ロボットの骨組にあたるアルミフレームやそのジョイント部分の直角接続ブラケット、ナット、ボルトなどです。
「メカニカル部品、配線部品から工具類、切削工具類と多岐にわたってミスミ製品を利用させていただいています。特に、ロボットの骨組みで使用しているアルミフレームは、丈夫なだけでなく、組みやすいので助かります。デモを行うために大学からトマト菜園にロボットを持って行く際は、このアルミフレームだと分解がしやすく、移動の際も大変助かっています」(塩路さん)。

インタビューイメージ丈夫で組みやすいアルミフレームはミスミ製品

トマトにキズをつけずに、
ロボットで収穫するには?

トマト収穫ロボットを開発する学生プロジェクト『Hibikino-Toms』は、リーダーの塩路さん(情報通信担当)、機械部品担当の張さんを含め、4名で構成されています。開発するトマト収穫ロボットは、2014年の「第1回トマト競技会」の参加から改良を重ね、現在5号機となりました。
「試行錯誤しながら現在の形になりました。ロボットにとって、密集するトマトの実をつかんで取るという動作が難しい。トマトにキズかつくと商品価値が下がるので、ねらった実を的確につかんで取ることが求められます」(塩路さん)。
ロボットがトマトの実を収穫するには、手(フィンガー)で実をつかんでもぎ取る手法と、茎の部分を刃で切断する手法があります。もぎ取る手法では、実のヘタがとれてしまうという短所があり、切断する手法では茎を高精度に認識しなくてはならない問題があるそうです。
「これらを踏まえ、掃除機のように実を吸引し、キャッチしてから刃で茎を切断する機構を開発しました。吸い込むことで、ロボットが多少ズレた場所を認識してしまっても、確実に実を引き寄せることができます」(塩路さん)。

インタビューイメージ工夫を重ねた収穫機構

実の吸引機構は、張さんが開発を担当しました。
「収穫機構の吸引部分は弁になっていて、収穫されたトマトがその弁を通過し、ホースを伝って収穫箱まで落ちる仕組みを設計しました。これにより、収穫したトマトを収穫箱まで運ぶ必要がなくなり、効率的な収穫が可能となります」(張さん)。
しかし、実験中に問題が発生。
「トマトを確実につかむために吸引する空気を強めたいのですが、この弁に空気が漏れてうまく吸引できません。逆に、空気が漏れないように弁を強靭にすると、今度はトマトが弁を通過できずに収穫箱まで落ちませんでした。競技会へ向けた開発を進める中で、このような課題を発見しました」(張さん)。
結局この動弁機構を実装できずに2020年度の競技会に出場しましたが、結果は3位となりました。この悔しさをバネに、2021年度大会での上位入賞、さらには菜園での実用化に向け、問題の解決や新しい仕組みの開発が進められています。

インタビューイメージコロナ禍でのオンライン取材
※下段左から塩路さん、張さん

実用化へ向けて、
現場を知ることの重要性

日本の農業は、高齢化や労働者人口の減少といった課題に対応するため、ハイテク化が進んでいて、大規模生産施設では、ロボットやIoT、AI、情報通信技術を活用した“スマート農業”に取り組んでいます。『Hibikino-Toms』でも、大学近辺のトマト菜園の企業と協力してトマト収穫ロボットの実用化を目指しています。
「菜園に足を運び、トマト作りの現場を体験することでいろいろなことが分かりました。例えば、ビニールハウス内は高温多湿でロボットには過酷な環境であったこと。そのため、回路を物理的に保護するなどの工夫が求められました」
「また、熟したトマトを収穫するには、カメラで実の状態を正確に判別する技術が必要です。しかし現場に行くと、トマトそれぞれ熟し方が違っていて、明るさや色が違う。熟したものでもビニールハウスに差し込む太陽光の角度で色が変わってしまいます。画像判別技術は実用化の大きな課題だと感じました」(塩路さん)。

インタビューイメージ実用化に向けて試行錯誤

第7回トマトロボット競技会
第7回トマトロボット競技会

競技の様子
競技の様子

最後に、この活動を通じて得たものをお二人にお聞きしました。
「農業問題や食糧問題に工業からアプローチしていくということに使命感を感じます。農業という、これまで学んだことのない分野で、何も知識がない状態から始まり、知らないことばかり経験してきました。一方で、こうした未知への挑戦はとても楽しいものです。菜園に足を運び、現場を知ったことは貴重な体験でした」(塩路さん)。
「機械分野出身の私にとって、電気や情報通信などの分野の知識を身につけることができました。さまざまな分野を結集してひとつのロボットを作り上げるのは大変ですが、その中にものづくりの楽しさもありました」(張さん)。
知らないことに挑戦すると失敗ばかり続くこともある。しかし『学生ものづくり支援』を利用することで、失敗を恐れず挑戦できる機会が増えたと塩路さんは話します。
未知に挑み続ける姿勢は、日本の農業、ひいては世界の農業を大きく前進させる力になります。

インタビューイメージ