INTERVIEWS

インタビュー

第41回大会 ミスミ賞

津野 太希つの たいきさん/ex machina

INTERVIEWS

カッコいいロボットには、強さも備わるはず

小学4年生でROBO-ONEの存在を知り、大人たちの世界に飛び込んでからめきめきと頭角を現してきた津野さん。39回大会で優勝するなど、過去4大会連続で3位以上に入賞しています。『ex machina』で見てほしい部分は「見た目」と言うものの、機械仕掛けの中身には強い想いが凝縮されていました。

「二足歩行ロボットを操縦するという部分で、
ROBO-ONEは刺さりました」

ミスミ賞の受賞おめでとうございます。

津野さん:ありがとうございます。

ROBO-ONEに参加されるきっかけは何だったのでしょうか?

津野さん:小さなころからものづくりに興味があって、親からレゴのマインドストーム*1をプレゼントされていたりしました。ROBO-ONEは小学4年生の頃に父が情報を見つけてきて「これ行ってみる?」というところから知って、会場に連れて行ってもらったのが知ったきっかけです。それからROBO-ONEを含めた2足歩行ロボットへの興味が高まって、お年玉などをかき集めて、ロボットキットのKHR-3HV*2を入手しました。

ex machina

  • Concept

    ガンダムみたいな、
    カッコいいロボット

  • Weight

    3900g

  • Height

    46cm

  • Axis

    サーボモーター23個

小学生の津野さんは、ROBO-ONEのどんなところに惹かれたのでしょうか?

津野さん:ガンダムが好きだったのですよ。ああいった物語の中であるような、カッコいいロボットを自分で作りたいという気持ちが強かったですね。ガンダムは操縦していて、ROBO-ONEも操縦する競技なので、ガンダムが好きだった自分にけっこう刺さった部分はあります。

他のロボット競技会ではなく、ROBO-ONEだったのですね。

津野さん:ロボットの中でも特にヒューマノイドにずっと興味があったのと、早くにROBO-ONEについて知ってしまったので、3つしかモーターがないレゴでどうやって二足歩行ロボットを作るか、みたいなことをずっと考えるようになってしまいました(笑)。地域のロボット練習会に参加させていただいたりだとか、規模の大きくない大会に出たりはしていましたが、ROBO-ONEに出るのはハードルが高くて。最初に参加したのは高校生になってからで、Lightが第17回(2018年9月)、ROBO-ONEは36回(2020年2月)だと思います。

最初のロボットキットから、どのようにステップアップしていかれたのでしょうか。

津野さん:最初はキットに外装を付けた状態で出ていましたね。自作ロボットを作りたくなってからは、動画サイトなどで3DCADの操作方法を勉強して、まず1kg以下のロボットを製作しました。その後にアルバイトでロボット企業に入ったことで、会社のCNC*3やボール盤*4などの機材を使わせていただけるようになって、そこから大型のロボットを作るためにサーボモーターを自分で購入したり、ロボット製作の先輩方から譲っていただいたりして、完成させることができました。

津野 太希さん

“リアル”ならではの交流で学んだ
ロボットの設計

ロボットの設計については、どうやって学ばれたのでしょうか?

津野さん:地元のロボット練習会や他の大会を見に行った際に、出場者の方の機体を近くで見せていただいたり、写真を撮らせていただいたり、最初はそういうところからです。あとは僕が始めた当時はすでにミスミさんの特設サイトがあったので、そこで色々なロボットの記事を見たりもしました。でもやはり現地に行くのは大きいですね。リアル大会ではそれが一番大事なところだと思っています。

目の前で実際に見て、質問もして、という交流ですね。

津野さん:大会の控室でロボットを囲んで、わいわい言っている時間が勉強になりますし、ROBO-ONEの楽しい部分だとも思っています。他人のロボットを見たり、自分のロボットについてアドバイスをもらえたり、もしくはロボットを持っていない「これから作る」という人が、どうやって作るのかを聞きに来られる場所としても、オフラインの大会はすごく大事ですよね。僕は参加者の中でも年齢が下のほうでしたし、ずっと新人の気分でいたのですが、最近は質問をいただくことが増えて、自己認識を改めていかなければと考えています。

「カッコいい」ロボットには、
壊れにくさと強さがあるはず

『ex machina』のポイント、一番見て欲しい部分はどこですか?

津野さん:競技会に出るロボットは、重量削減のために肉抜き*5をして隙間が多くなることが多いのですが、3Dプリンターで出力した外装を装着して、どの角度から見ても、子供の頃に見ていたガンダムのような、ヒロイックなロボットの形で作ることを心がけています。

外装を付けると、外装の無いロボットよりも機体重量が重くなってしまいがちですが、部品作りや設計で工夫している部分はありますか?

津野さん::3Dプリントの部品はフレームの強度が必要な部分には使わないようにしているので、極力密度を薄くして作っています。そうして部品自体の重量を軽くすることと、例えばポケット加工*6のような軽量化を取り入れています。加工時間がかかってしまうのが難点なのですが。

ロボット作りのきっかけから今まで、津野さんにとっては「強いロボット」よりも「カッコいいロボット」がコンセプトとして共通しているのですね。

津野さん:もちろん「強いロボット」というのも大事です。でもやはり「強いロボット」だけでは、その競技に特化しすぎてしまうところがあって、僕はそこを目指さなかったのです。デザインが良いものを作れば、それに従って構造物としての強さも出てくると考えています。例えば僕は自分の思うかっこいいロボット像から離れないように、腰や腕に全て軸内配線*7を取り入れたり、3Dプリントした外装の中に穴を開けたりして、できるだけ配線が外部から見えないようにしています。その結果として配線トラブルがなくなったので、「カッコいい」ロボットを作ることは、競技において「強いロボット」を作ることにも繋がると考えています。

壊れた部分を改良して、
一段ずつ高みに上ってきた『ex machina』

『ex machina』は今後どんなロボットに進化していくのでしょうか?

津野さん:『ex machina』は最初から数えると、多分バージョン15くらいだと思うのですが、長穴減速*8の採用や薄い板のフレームでねじを受ける部分に埋め込まれたナット、スラストベアリングを噛ませて引っ張りや圧縮の力を受けるようにした腰、というような「壊れない工夫」が順次組み込まれてきています。実はそういった部分は、全部これまで実際に壊れてきた箇所なのです。壊れないロボットを作るという部分を自分ではすごく大事にしていて、大会に出るたびトライアンドエラーのように毎回どこかパーツを改良して作り変えてきました。

今大会の『ex machina』で壊れた部品はありましたか?

津野さん:実は大会中に予備パーツもないフレームが音を立てて割れてしまって。周りの方が工具や使っていないフレームなど、手を貸してくださったおかげで勝ち進めました。割れたフレームはかなり板厚と幅を取っていた箇所で、まさか壊れると思っていなかったのです。その時は自分の設計にちょっと疑問を抱いてしまいました。まだまだですね。その部分は現地で補修して以降何もしていないので、ちゃんと強度解析をしながら改良していこうと思います。

大学での研究とROBO-ONEはリンクするものがありますか?

津野さん:今大学でやっているのは等身大ヒューマノイドロボットの運動能力を向上させる研究です。等身大ヒューマノイドロボットは、人間と同じ生活環境で、同じ道具を使って動くことができるところに最大の利点があると思っているので、それを最大限活かすために、人間と同等の運動性能や空間認識機能を目指す必要があると考えて行っています。その設計において「こうすれば剛性を高くできる」だとか「こういう軸の設計をすれば壊れづらくなる」といった部分は、間違いなくROBO-ONEから研究の方にフィードバックできているものです。逆に制御部分においては、研究でのノウハウからROBO-ONEの方に活かせるものがあると思っています。大学のロボット製作では「meviy」にもお願いすることになると思いますし、ネジなどの部品も買わせていただいていて、ミスミさんにはお世話になっています。

その先の将来の夢として、どういうものを作っていきたいですか?

津野さん:ROBO-ONEのほうでは、競技指向というより自分の技術を高めるほうへ持っていこうと考えているのです。ROBO-ONE autoや新ROBO-剣*9のように、どちらかというと自分で操縦するよりは、制御のほうに力を入れていければと思っています。卒業後はもちろんロボットを作っていきたいですが、ロボット関係に就職することだけにこだわらず、何かものづくりに携われる仕事をして、趣味としてロボットをできればと考えています。

  • *1 ブロック玩具で知られるレゴ(R)社製のロボティクス部品シリーズ。
  • *2 近藤科学製の二足歩行ロボットキット。全高約40cm、重さ約1500g、サーボモーター17軸。
  • *3 エンドミルとテーブルの移動がコンピュータで制御された切削加工機械。
  • *4 垂直に貫通穴をあける加工機械。
  • *5 パーツの機能を維持したまま軽量化するため、不要な部分を削り取る加工。過度に行うとパーツの剛性が保てない可能性がある。
  • *6 部品の軽量化のため、外縁部分などを残して不要な部分の厚みを薄く削る加工。
  • *7 関節部分で軸の反対面から配線を引き出す設計。関節が動くために配線のたるみを持たせる必要がない。
  • *8 出力軸が溝の中をスライドしながら動くことで減速する機構。長穴の軌道設計によっては、入力速度が一定の時でも減速後の動作速度を変化させることができる。
  • *9 二足歩行ロボット協会が主催するロボットによる剣道大会。

インタビュー一覧