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第41回大会 ミスミ賞

水野谷 純平みずのや じゅんぺいさん/Raptor

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持てる技術を出し切って完成させたロボット

学生時代から存在感のある機体で実績を残していた水野谷さん。オリジナルケースを採用するサーボモーターで注目を集めた『Raptor』は、社会人になって変化した、大会に臨む姿勢を写し出したものでした。

ミスミ賞を頂いたおかげで
“出て良かった”と思えました

ミスミ賞の受賞おめでとうございます。

水野谷さん:ありがとうございます。

ミスミ賞は狙っていましたか?

水野谷さん:いや、そこはまったく思っていませんでした。技術的な面で評価していただいたのは自作サーボモーターだと思うのですが、僕が初めてやったわけではないので。初戦で負けたときには「出ない方がよかった」と思っていたのですが、そんな気分をひっくり返してくれる受賞でした。ミスミ賞を頂いたおかげで 「出て良かった」と思えましたね。

Raptor

  • Concept

    バトルに強くて色々な動きが
    できるロボット

  • Weight

    3900g

  • Height

    57cm

  • Axis

    モーター37個

水野谷さんは第26回ROBO-ONEで予選1位を獲得するなどの実績を残されていますが、今回受賞した『Raptor』は新たに作られたのですか?

水野谷さん:ちょうどオンライン大会になった2020年の春あたりが、先代の『Raptor』を作り変えようと思っていた時期だったのです。自宅待機も多くなって、使える時間がしばらく増えそうだとなったときに、機体を作る方に注力しようと思いまして。ここ2年ほどは全く大会に出ずに、今の『Raptor』を制作していました。

長い期間モチベーションを持続できた理由はありますか?

水野谷さん:作り始める前からずっと「この機構を入れたいな」「こういった構造にしたいな」というネタのストックが数年分溜まっていたので、それを消化していくだけでよかったのが1つと、もう1つは学生の時に沢山のお金と時間を使っているので、今更やめられないという心理ですね(笑)。

水野谷 純平さん

そうすると、腰を据えて作り直すのに良いタイミングだったのですね。

水野谷さん:社会人になってロボットを作るための環境を整えていたタイミングで、知り合いからCNC*1を譲っていただいたのもその時期だったのです。それまでは学生時代に作ったロボットをだましだまし修理して出場していたので、パーツを作らなければならない時はFabLabなどのCNCを借りられるレンタルスペースで土日に作業をしていました。ちょうど引っ越しして、自宅に工作機械を置くスペースも確保できたので、社会人としてあらためてスタートという気持ちでした。

ミスミの「meviy」のようなサービスは利用しましたか?

水野谷さん:僕は最初から作り込むというよりは、1度部品を作って実物を見てから改良していくのが好きなのです。仕様が決まった後での量産であればぜひ頼みたいですね。あと、サーボモーターのギヤがアルミで割れやすいので、ミスミさんのギヤを追加工していただけるサービスで、もっとモジュールが小さいものがあるととても嬉しいです。

自由度を増やすために製作した
オリジナルのサーボモーター

『Raptor』製作のコンセプトを教えていただけますか?

水野谷さん:まず、学生時代は手っ取り早く勝ちたいので、強いロボットを真似していたのです。それを続けていて気づいたのが、足は動くためだけ、腕は殴るためだけという形で突き詰めていった一つの形が、恐らく今上位に来ているロボットなのです。そうすると強いは強いのですが、選択できる戦い方が限られてきている気がしたのですね。相手も自分も同じような攻撃方法で戦うと、勝敗を分けるのは操縦になります。でも私は操縦が下手なので、別の方法でより強いロボットが作れないか、というのが出発点だったのですよ。

操縦ではなく、ロボットの能力で勝とうということですね。

水野谷さん:“上位陣と張り合えるパワーがあって、かつその上位陣ができない動きができるロボット”という方向で考えていきました。サーボモーターを自作したのはそのためです。小型のサーボモーターに変えて軽量化して自由度を増やそうとすると、結局相手を倒すためのパワーが不足してしまいます。自作することで、モーターやギヤは同じままでパワーをキープしつつ、ケースを軽量化できます。浮いた重量でサーボモーターを増やして、関節の数が増えて自由度もあげることができるわけです。

自作の理由はパワーアップのためではなく、軽量化だったのですね。

水野谷さん:出力のスペックで言えば、ROBO-ONEの他のロボットとあまり変わらないと思います。1つの関節に2つのサーボモーターを使う、いわゆる並列化をしている部分であれば「モーター1つ20g、ケースとギヤなど40g、合計60g」の市販品で普通に並列化すると、60gのサーボモーター2つで120gです。僕は1つのギヤボックスにモーターを2つ入れているので、ちょっと大きめとして50gくらいのケース1つにモーター2つで大体90gになります。並列化する1つの関節で20から30gくらい削っている計算になります。並列化しない部分ではそれほど削れないのでマイナス10gくらいですね。『Raptor』の自由度は25ですが、モーターは37個入っています。軽量化のおかげで、自由度が多いのにパワーが必要な膝など12箇所の関節にモーターを足すこともできています。

増えた自由度で目指す動きはどんなものなのでしょうか?

水野谷さん:実はそこまで「この動きをやりたい」というものはないのです。目指しているのは『YOGOROZA』*2のような機体で、モーションを色々仕込めて、多彩な動きができるロボットですね。計画的にというより、なんとなくここに軸があった方が動かしやすいな、というような意識で関節を増やしていったのですが、こだわったのは股関節と肩の関節でした。昔のプラモデルのロボットがそうですが、この部分の可動域が狭いとカッコいいポーズを取らせたくてもできません。なので、この2箇所で可動域を大きく取ることができるように設計して、モーションを作っていて「楽しい」と思える機体にしました。

他のロボットには多い、腰のヨー軸*3はないのですね。

水野谷さん:今回はあえて外しました。腰を中心にして必ず上下に分かれてしまうといったデザイン的な話もあるのですが、他のロボットを見ていると、最近腰ヨー軸は壊れやすいようです。みんな腕や肩のパワーが欲しいので、ロボットの上半身はどんどん重くなっているのですが、その上半身を全部1つのサーボモーターで回さなきゃいけないのはきついのですよ。『Raptor』は股関節を使って上半身をひねるような方法にしたのですが、それであれば股関節のモーターを2つ使って旋回するので、モーターにかかる負荷は半分くらいになっているはずです。

ROBO-ONEの持つ懐の広い雰囲気は
そのままで安心しました

久しぶりのROBO-ONE参加だったということで、会場の雰囲気はいかがでしたか。

水野谷さん:いい意味で、何も変わってなかったですね(笑)。勝ちを本気で目指している人もいるし、楽しくやろうという人もいましたし、皆さん初心者にもすごく優しいですし。そういう懐の広さと言うか、勝ち狙いでもネタ狙いでも何してもいいという雰囲気が僕はすごく好きでROBO-ONEに出ているのですけど、それが全然損なわれてなかったです。控室で他の人とロボットの話をしている時が楽しかったですね。

控室で刺激を受けたロボットはいましたか?

水野谷さん:『Arr.キマイラ phoeniX』*4という全身3Dプリンター部品のカッコいいロボットがいたのですが、よく見ると足や胴体や肩の軸配置が、『Raptor』と一緒なのですよ。自分でも『Raptor』は変なロボットを作ったな、と思っていたのに、まさか同じ軸配置のロボットがいるとは思いませんでした。あちらは全部3Dプリンター部品なので、フレームの組み方や軸受けの構造は全く異なるのです。全然違うこと考えて設計していたのに偶然一致したなんて面白いですよね。

次のROBO-ONEまでに『Raptor』の改良ポイントは浮かんでいますか?

水野谷さん:大幅にルールが変わるか、絶対に今のロボットでは勝てないと感じるロボットが出てくるまでは、コンセプトは変えません。今大会も一応戦うことはできましたが、『Raptor』は関節が多くてめちゃくちゃモーションを作るのが面倒なので、作りたかったモーションが3割もできていませんでした。そこを仕上げていこうと思います。

“他のロボットにできない動き”を作っていくわけですね。

水野谷さん:先ほど足は動くためだけ、腕は殴るためだけというロボットの話をしましたが、人間であれば腕だけで相手を殴って飛ばすなんてありえないのですよ。必ず下半身の動きがあって、そこに合わせて腕を振るような、全身を使った動きになるはずです。例えば踏み込んでのパンチや、その場から動かなくても腰をひねってのパンチといった、下半身の力も使った攻撃が出るようになると、戦い方のバリエーションはもっと増えると思っています。『Raptor』の自由度は足りているはずなので、後はどうやってバランスをとるかが課題です。

完成した『Raptor』が楽しみです。

水野谷さん:過去の機体は基本的に未完成品と思っていましたが、大会に勝っても負けても楽しいので、出られればいいやと思って出続けていたのです。学生の時は勝てば予算が増えるというようなモチベーションもあって、大会に1つでも多く出て1勝でも多く勝とうというようなスタンスでした。社会人になってからは心境の変化というか、趣味として好きなことをやる時に、楽しいだけだとちょっと物足りない気持ちもありまして、一度自分が持てる技術を全部出し切って「これがいちばん強いだろう」というのを作って、モーションも作って、格闘技だから操縦も頑張って、そのあたりもしっかりやりきったうえで出てみたいと思っています。

  • *1 エンドミルとテーブルの移動がコンピュータで制御された切削加工機械。
  • *2 第34回ミスミ賞。
  • *3 床面に対して垂直に立った向きの軸。旋回方向に回転する動きの軸。
  • *4 RRRR(マルチアール)制作、第41回ROBO-ONEパフォーマンス部門18位。

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